アヌ (ケルト神話)

アヌ（Anann、Anu）、またはアナ（Ana）は、ケルト神話において豊穣と肥沃を司る重要な大地母神として知られています。

特にアヌはマンスター地方と深く結びついていたと考えられています。『コール・アンマン』によれば、アヌの住処はマンスターにあり、その地の豊穣を司る女神として崇められていました。マンスター地方のキラーニー南方には「ダー・ヒーヒ・ナナン（アヌの両乳房）」と呼ばれる二つの丘があり、これはアヌがこの地域に与えた影響の大きさを物語っています。

しかし、アヌの影響はマンスター地方に限定されませんでした。『サナス・ホルミク』では、アヌは「アイルランドの神々の母」として言及されており、詩歌においてはアイルランドそのものを指して「アヌの土地」と表現することも一般的でした。このことから、アヌはアイルランド全体に広範な影響力を持っていたと考えられます。

アヌの別名としては、ダーナやダナンといった名前も挙げられます。ただし、文献によってはこれらの名前は本来、アヌとは異なる独立した存在を指していた可能性も指摘されています。マイヤーは、これらの名前が元々は別の神格を指していたのではないかと推測しています。

アヌはケルト神話において、大地の恵みと母性を象徴する女神として、人々に豊穣と繁栄をもたらす存在として崇拝されていました。彼女の名は、アイルランドの地名や文化に深く根ざし、その影響は今日まで残っています。

参考文献

『世界神話辞典』 - アーサー・コッテル（柏書房）
マッカーナ, プロインシァス 著、松田幸雄 訳『ケルト神話』青土社、1991年。ISBN 4-7917-5137-X。
* マイヤー, ベルンハルト 著、鶴岡真弓 平島直一郎 訳『ケルト辞典』創元社、2001年。ISBN 4-422-23004-2。

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