アバルト・1500ビポスト

アバルト 1500ビポスト：伝説のコンセプトカーの軌跡

アバルト 1500ビポストは、1952年、イタリアの自動車メーカー、アバルトがトリノモーターショーで発表したコンセプトカーです。その革新的なデザインと高い性能は、自動車史に燦然と輝く一ページを刻みました。

空力性能を追求したスタイリング

当時ベルトーネに所属していた天才デザイナー、フランコ・スカリオーネが手がけたボディは、他に類を見ない独創的なスタイルです。3灯式ヘッドライト、大胆にえぐり取られた前後フェンダー、そしてテールフィンを思わせるリアデザインなど、徹底的に空力性能を追求した造形は、見る者を圧倒します。このデザインは、スカリオーネが1953年から手がけたアルファロメオのB.A.T.シリーズの原点とされており、1500ビポストは「B.A.T. 1 (Berlinetta Aerodinamica Tecnica、空力技術クーペの意)」という通称でも知られています。また、アバルトの限定車名として後に有名となる「ビポスト」の名称が初めて用いられたモデルでもあります。

性能を向上させたメカニズム

1500ビポストのベースとなったのは、フィアット 1400ベルリーナです。角断面プレス鋼板製フレームやサスペンションといった主要コンポーネントを流用しながら、アバルトはエンジンを大幅に改良。1400ccの排気量に拡大し、チューニングと専用のエキゾーストシステムの採用により、最高出力は45PSから75PSへと大幅に向上しました。このパワフルな心臓部が、独創的なボディと相まって、1500ビポストに卓越した走行性能をもたらしたのです。

幾多の転身を経て

トリノモーターショーの後、1500ビポストはアメリカのパッカード社に購入され、デザイン研究に活用されました。その後、同社の宣伝協力誌「フォーチュン」のライターだったリチャード・A・スミス氏に譲渡されます。スミス氏の死後、2003年にクリスティーズのオークションに出品された1500ビポストは、ボディカラーがブルーに塗り替えられていたものの、欠品はなくオリジナルの状態を維持していました。そして29万6,500ドルという高値で落札され、イギリスの自動車愛好家、クリス・ドレイク氏の手に渡ったのです。

ドレイク氏の手によってレストアされた1500ビポストは、2010年、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスに出品され、グランツーリスモシリーズが選出する「グランツーリスモ・トロフィー」を受賞。この受賞を機にグランツーリスモシリーズへの収録が決定し、「グランツーリスモ6」(2013年発売)、「グランツーリスモSPORT」、「グランツーリスモ7」に収録されることとなりました。

アバルト 1500ビポストは、その美しいデザイン、高い性能、そして波乱に満ちた歴史によって、多くの自動車愛好家を魅了し続けています。単なるコンセプトカーとしてだけでなく、自動車デザイン史、そして自動車文化史における重要な存在として、これからも語り継がれることでしょう。

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