アフロディシアスのアレクサンドロス

アフロディシアスのアレクサンドロス：アリストテレス解釈の巨匠

アフロディシアスのアレクサンドロス（2～3世紀頃）は、ローマ帝国時代に活躍した哲学者です。その名声は、アリストテレス哲学の解釈者としての卓越した業績によるものです。カリアのアフロディシアスに生まれ、3世紀初頭にはアテナイに移住し、逍遥学派の学頭として後進の指導にあたりました。

アレクサンドロスの生涯と学問

アレクサンドロスは、ストア派や逍遥学派の哲学者たちから学んだと考えられています。アテナイでの逍遥学派の学頭としての地位は、近年発見された碑文によって裏付けられています。この碑文からは、彼の全名が「ティトス・アウレリオス・アレクサンドロス」であったこと、そしてローマ市民権を持っていたことが明らかになっています。彼の父も哲学者であったという記録もあり、アレクサンドロスの著作の一部が父のものと混同されている可能性も指摘されています。

アリストテレス注釈における貢献

アレクサンドロスは、アリストテレスの著作に多数の注釈を書き残しました。彼の注釈の特徴は、アリストテレスの思想を忠実に解釈することに加え、折衷主義的な傾向を避け、アリストテレス哲学の純粋な形を取り戻すことにあった点です。

現存する注釈書には、『分析論前書』『トピカ』『気象論』『感覚と感覚されるものについて』『形而上学』（1-5巻）などがあります。『形而上学』6-14巻に付されている注釈は、後世の学者による偽書とされています。また、散逸した注釈書も数多く存在したと推測されています。

近年、アルキメデスのパリンプセストからのイメージング解析によって、『範疇論』の古い注釈書が発見されました。古典学者ロバート・シャープルズは、この注釈書の著者としてアレクサンドロスを最も有力な候補として挙げています。

アレクサンドロスの独自の論考

注釈書以外にも、アレクサンドロスは独自の哲学論考を多数残しています。主な作品には、『霊魂論』『問題と解決』『倫理的諸問題』『運命について』『混合と成長について』などがあります。

特に注目すべきは『運命について』です。この書において、アレクサンドロスはストア派の決定論に反論し、自由意志の存在を主張しました。この論考は、古代における自由意志論争において重要な位置を占めています。また、『霊魂論』では、アリストテレスの思想を踏まえつつ、魂の不滅性を否定する独自の主張を展開しました。

他にアラビア語訳で現存する『宇宙の諸原理について』や『神意について』といった著作からも、アレクサンドロスがアリストテレス哲学の様々な側面について深い考察を行っていたことがわかります。これらの作品では、アリストテレス哲学内部の矛盾の解消や、物理的世界と倫理的世界の統一的な図解を試みている点が特徴です。

アレクサンドロスの影響

アレクサンドロスのアリストテレス注釈は、6世紀以降も高く評価され、彼は「注釈者」と呼ばれました。彼の著作はアラビア語に翻訳され、イスラム世界にも大きな影響を与え、モーシェ・ベン・マイモーンなどもその著作を引用しています。

13世紀にはパリの宗教会議で断罪宣告を受けるなど、その影響力の大きさを示す出来事もありました。ルネサンス期には、彼の魂の不滅性に関する説が、ピエトロ・ポンポナッツィらに受け継がれ、「アレクサンドロス主義」という学派が形成されました。

近代におけるアレクサンドロスの著作

アレクサンドロスの著作は、15世紀以降徐々に印刷出版され、近代以降も活発な研究対象となっています。近年の研究は、英文への翻訳や、新たな原稿の発見など、多くの進展を見せています。

まとめ

アフロディシアスのアレクサンドロスは、アリストテレス哲学の解釈者として、また独自の哲学論考の著者として、古代哲学史に大きな足跡を残した哲学者です。彼の著作は現代においても、哲学、歴史、科学の分野で研究され、その影響は絶大なものがあります。

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