アブドゥルムッタリブ・イブン・ハーシム

アブドゥルムッタリブ・イブン・ハーシムの生涯と業績

アブドゥルムッタリブ・イブン・ハーシム（ʿAbd al-Muṭṭalib b. Hāshim）は、イスラームの預言者ムハンマドの父方の祖父であり、彼の幼少期を支えた人物です。彼の名前には「白髪」を意味するシャイバという別名もあり、伝承によると、彼はメディナで出生しました。父のハーシムがメッカからシリアへの隊商貿易の途中で亡くなると、彼の叔父ムッタリブがアブドゥルムッタリブを引き取り、メッカで育てました。彼の叔父には、若いアブドゥルムッタリブの商業的な才能を伸ばし、アブドマナーフ家の名声を高める目的があったとも考えられています。

青年期と政治的立場

アブドゥルムッタリブの成長過程において、彼がメッカにおける政治的権力の一端を担うようになったかどうかは、さまざまな意見が分かれています。イスラーム教徒の資料に基づく記録では、彼の重要性は強調されがちですが、西洋の学者たちはこの点について懐疑的です。「クライシュ族の長」としての彼の地位は、一部の政治的集団のリーダーであったことが主流の見解です。特にメッカでは、複数の氏族が連合を形成しており、その中でアブドゥルムッタリブの役割は限られていたと指摘されています。

象の年（西暦570年頃）、アブドゥルムッタリブはアビシニアの侵攻に対して交渉を行ったとされていますが、彼がメッカ全体を代表していたのではなく、特定の政治集団を代表しての行動であった可能性が高いとの見解もあります。この時期、彼は他の部族と同盟を結び、ターイフで井戸を所有するなど、経済的にも優れた手腕を発揮しました。父から受け継いだメッカへの巡礼者に水と食事を提供する特権も、彼の影響力を裏付けています。

ザムザムの井戸

特に知られている業績の一つは、カアバの近くに位置するザムザムの井戸を掘ったことです。これは、メッカの水源を確保し、多くの巡礼者のための重要な資源となっていました。この井戸の存在は、アブドゥルムッタリブの名声を高める要因ともなりました。

孫、ムハンマドの育成

アブドゥルムッタリブは、息子のアブドゥッラーが亡くなった後、彼の遺児であるムハンマドを引き取り、彼を育てました。アブドゥルムッタリブの死後、ムハンマドは祖父の教えを受け継ぎ、後にイスラームの預言者としての運命を全うしていくこととなります。アブドゥルムッタリブは、ムハンマドが8歳の時に亡くなり、彼の年齢は伝承ごとに異なるものの、82歳から120歳の間で語られています。

家族と子孫

アブドゥルムッタリブは、多くの妻を持ち、数人の息子をもうけました。主な息子として、アブドゥッラー、アブドマナーフ（アブー・ターリブ）、ズバイルなどがいます。また、彼は他の有力氏族の女性とも婚姻を結び、息子ハムザ、アッバース、ハーリス、アブドゥルウッザー（アブー・ラハブ）などをもうけるなど、彼の子孫は後に重要な役割を果たすことになります。

アブドゥルムッタリブ・イブン・ハーシムは、イスラームの歴史において重要な存在ではあるものの、その評価にはさまざまな解釈があります。しかし、彼の存在はムハンマドの人生やイスラーム誕生において大きな影響を与えたことは間違いありません。彼の業績と人生の物語は、イスラームの信仰と文化の歴史において重要な一ページを形成しています。

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