アブラハム・ロビンソン

アブラハム・ロビンソン

ドイツ出身の数学者・論理学者、アブラハム・ロビンソン（Abraham Robinson, 1918-1974）は、数理論理学とモデル理論を専門とし、特に「超準解析（Nonstandard Analysis）」を創始したことで知られます。この業績は、歴史的に用いられてきた無限小概念に厳密な基礎を与え、解析学に革新をもたらしました。

ロビンソンは1918年10月6日、ドイツ帝国時代のヴァルデンブルク（現ポーランド）に、シオニズムを信奉するユダヤ系家庭に生まれました。ナチスの台頭を避け、1933年に一家でイギリス委任統治領パレスチナへ移住。エルサレムのヘブライ大学で数学と物理学を学び、最初の学位を取得しました。その後、ソルボンヌ大学へ留学しますが、第二次世界大戦勃発により帰国。

第二次世界大戦中、ロンドンにいたロビンソンは自由フランス空軍に参加しました。数学者としての知識を活用し、航空機の空気力学、特に戦闘機の翼設計に関する専門家として貢献。この異分野での経験は、彼の後の数学研究に示唆を与えた可能性があります。

戦後、ロビンソンは学術界に戻り、ロンドン大学、トロント大学、ヘブライ大学で教鞭を執りました。研究の中心は数理論理学、特にモデル理論へと移り、この分野で重要な貢献をしました。その後アメリカ合衆国へ渡り、1957年から1962年までカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）で教え、1967年からはイェール大学の教授として、晩年まで精力的に活動しました。

ロビンソンの最も画期的な業績は、彼が1960年代初頭に創始した「超準解析」です。これは、17世紀のライプニッツらが非形式的に用いた無限小や無限大といった概念に、モデル理論の手法を用いて厳密な数学的基礎を与えたものです。

超準解析は、「超実数」と呼ばれる新しい数の体系を導入することで、無限小や無限大を数学的に厳密に扱えるようにしました。これにより、微積分や解析学の様々な定理を、従来の極限論とは異なる、直感的でライプニッツ的手法に近い形で証明することを可能にしました。超準解析は、解析学に新たな道具と視点をもたらし、数学の多様な分野、さらには物理学や経済学など他の科学分野にも影響を及ぼしています。

ロビンソンは数学者として国際的に高い評価を得ており、1973年には権威あるブラウワー・メダルを受賞しています。

しかし、精力的な活動の最中、1974年4月11日、コネチカット州ニューヘイブンにて、肝臓癌のため55歳でその生涯を閉じました。

アブラハム・ロビンソンは、数理論理学の深い知見を解析学に応用し、無限小の厳密な定式化という長年の課題に挑み成功した革新的な数学者です。彼の創始した超準解析は、今日でも数学研究の重要なツールとして発展を続けています。

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