アブー・ハニーファ・ディーナワリー

アブー・ハニーファ・ディーナワリー：イスラーム世界の博学者

アブー・ハニーファ・ディーナワリー（815年頃 – 896年頃）は、9世紀のイスラーム世界において、その名を博学の徒として知られた人物です。彼は、アラビア語文法、辞典編纂、天文学、数学、そしてハディース（預言者ムハンマドの言行録）の伝承といった、広範な分野で顕著な業績を残しました。

生涯

ディーナワリーの本名はアフマド。父称はイブン・ダーウード・ブン・ヴァナンド。ニスバはアッディーナワリー。これは、彼の先祖がディーナヴァル地方の出身であることに由来します。10世紀の書籍商ナディームによれば、彼はバスラ学派とクーファ学派の文法学を修め、イブン・スィッキートとその父イスハークから、文法学、文献学、幾何学、代数学、天文学などを学びました。また、イスラーム諸学にも精通し、ハディース伝承における信頼性は高く評価されていました。

彼の出自については諸説あり、ペルシア人、クルド人、あるいはペルシア人を祖先に持つアラブ人という説も存在します。

著作

ナディームの『フィフリスト』によれば、ディーナワリーの著作は16点に及びます。その内容は、数学、自然科学、社会科学、人文科学と多岐にわたります。

数学・自然科学

Kitâb al-kusuf (日食の書)
Kitāb an-nabāt yufadiluh al-‘ulamā' fī ta’līfih (植物の書：学者たちがその構成を高く評価)
Kitāb Al-Anwā (嵐)
Kitāb Al-qiblah wa'z-zawāl (天体の方向の書)
Kitāb ḥisāb ad-dūr (周期の算術/計算)
Kitāb ar-rud ‘alā raṣd al-Iṣbhānī (イスファハーンの観測への反論)
Kitāb al-baḥth fī ḥusā al-Hind (インドの算術の分析)
Kitāb al-jam’ wa'l-tafrīq (算術/加算と微分)
Kitāb al-jabr wa-l-muqabila (代数学と方程式)
Kitāb nuwādr al-jabr (代数学の珍しい形)

社会科学・人文科学

Kitāb al-akhbār al-ṭiwāl (一般史)
Kitāb Kabīr (大著：科学史)
Kitāb al-faṣāha (修辞学の書)
Kitāb al-buldān (都市（地域）の書（地理学))
Kitāb ash-sh’ir wa-shu’arā’ (詩と詩人)
Kitāb al-Waṣāyā (戒め（遺言）)
Kitāb ma yulahan fīh al’āmma (民衆が話す際に誤るもの)
Islâh al-mantiq (言葉の改善)
* Ansâb al-Akrâd (クルド人の祖先)

ディーナワリーの歴史書『Al-Akhbar al-Tiwal』は何度も校訂されていますが、ヨーロッパ近代語への全訳はまだありません。

『植物の書』

ディーナワリーの代表作である『植物の書』（Kitāb al-Nabāt）は、全6巻からなる中世イスラーム圏における植物学の先駆けとなった著作です。しかし、残念ながらほとんどの巻が散逸し、現在に伝わっているのは第3巻と第5巻のみです。第6巻の一部は、後世の人々による引用を通じて再構成することが可能です。残された部分からは、アラビア文字のsinからyaまでの文字で始まる名前を持つ植物、637種の生育や花、果実に関する記述が確認できます。

ディーナワリー以前にもイスラームの学者による植物学の著作は存在しましたが、そのほとんどが散逸しています。ディーナワリーは、シャイバーニー、イブン・アゥラービー、バーヒリー、イブン・スィッキートといった学者たちの著作を引用しており、彼らの業績が完全に失われることを防ぎました。

『植物の書』の内容は、天文、農学、本草学、冶金学、地誌学にまで及びます。同書には、天候や気象に関する知識を農業に応用する方法について記述されており、空模様、惑星と星座、太陽と月、季節と降雨を示す月相、そして降雨と関係すると考えられていた天体anwā‘について解説しています。さらに、風、雷、稲光、雪、洪水、谷、川、湖、井戸など、水の獲得に関係すると考えられた気象現象についても記述されています。

また、『植物の書』には、農業を語る文脈で地球についても解説する部分があります。ディーナワリーは地球を石と砂からなると考え、土壌の違いが植物や作物の生育、品質に与える影響について論じ、良い土壌の条件についても述べています。

ディーナワリーの業績は、イスラーム科学の発展に大きく貢献しました。彼の著作は、後世の学者たちに大きな影響を与え、イスラーム世界の学術研究を豊かにしました。

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