アミラ・ハス

アミラ・ハス

アミラ・ハス（עמירה הס / Amira Hass、1956年6月28日 - ）は、現代イスラエルの最も著名なジャーナリストの一人です。エルサレムに生まれ、イスラエル大手紙「ハ・アレツ」の特派員として、長年にわたりパレスチナ占領地の現実を内部から伝え続けています。

生い立ちと経歴

1956年、エルサレムに生を受けたアミラ・ハスは、学術の府であるヘブライ大学で学びました。卒業後、イスラエルの主要な日刊紙である「ハ・アレツ」に入社。ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせます。当初から彼女の関心は、イスラエルによる占領下のパレスチナの状況に向けられていました。

パレスチナ占領地からの報告

アミラ・ハスのジャーナリズムの特異性は、その活動拠点をパレスチナ占領地に置いている点にあります。多くの特派員が外部から取材する中で、彼女はパレスチナの人々と共に暮らすことを選択しました。これは、占領が彼らの日常にどのように影響を与えているかを肌で感じ、その声を直接世界に届けるためでした。

パレスチナの人々の言語であるアラビア語を習得した彼女は、ガザ地区やヨルダン川西岸地区の中心都市ラマッラーなどに実際に居住しました。これにより、イスラエル社会の内部から発信しつつも、パレスチナの視点に立った詳細かつ共感的な報道を可能にしています。彼女の記事は、検問所での日々の困難、インフラの破壊、経済的な苦境、そして人権侵害など、占領下での生活のあらゆる側面を克明に描写しています。その報道は、イスラエルの読者に対しても、自国の政策がパレスチナの人々に与える影響を直視するよう迫るものです。

彼女の著書『パレスチナから報告します：占領地の住民となって』（原題：Reporting from Ramallah: An Israeli Journalist in an Occupied Land）は、このユニークな経験に基づいています。2003年に原著が出版され、日本ではくぼたのぞみ氏の翻訳で2005年に筑摩書房から刊行されました。この本は、占領下での生活がいかに困難であるか、そしてそこに暮らす人々の尊厳や抵抗がいかに力強いかを伝えています。

国際的な活動と日本訪問

アミラ・ハスは、その活動をイスラエル国内に留めず、国際的な場でも積極的に発言しています。世界各地で講演を行い、占領地の状況について啓蒙活動を行っています。

特に注目すべきは、2017年9月の日本訪問です。これは、イスラエルによるパレスチナ占領に批判的な立場を取るドキュメンタリー映画監督・ジャーナリストの土井敏邦氏らによって招聘されたものです。日本滞在中、彼女は東京、京都、広島といった主要都市に加え、沖縄県でも講演を行いました。沖縄では、在日米軍基地の問題や、歴史的な経緯からパレスチナと共通する構造的な課題について深い関心を示し、取材を行いました。また、福島県も訪れ、東日本大震災からの復興や原発事故の影響についても取材しています。さらに、長野県の蓼科にも滞在し、日本各地で多くの人々と交流しながら、自身のジャーナリズム活動とそこで得た知見を共有しました。この日本での一連の活動は、多くの日本人にパレスチナ問題への関心を高めるきっかけを与えました。

メディア出演

ジャーナリストとして精力的に活動する傍ら、メディアにも出演し、自身の視点を発信しています。2017年12月3日には、NHK Eテレの番組「こころの時代」に出演。「紛争の地から声を届けて」と題されたこの回で、彼女はパレスチナ占領地での取材活動を通じて感じたこと、そしてジャーナリズムが果たすべき役割について語りました。

まとめ

アミラ・ハスは、イスラエル人でありながらパレスチナの人々と共に暮らし、占領地の現実を世界に伝え続ける稀有なジャーナリストです。その勇気ある行動と、パレスチナの視点に寄り添った報道は、国際社会において高く評価されています。彼女の仕事は、紛争下にある人々の声がいかに重要であるか、そしてジャーナリズムがいかに権力に立ち向かい、見過ごされがちな現実を照らし出すことができるかを示すものです。パレスチナ問題が複雑化する現代において、彼女の報告は依然として重要な意義を持ち続けています。

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