アミロライド

アミロライド

概要

アミロライド（英語名: Amiloride）は、薬理学において「カリウム保持性利尿薬」に分類される合成化合物です。体内の過剰な水分や塩分を排出する利尿作用を発現しますが、他の多くの利尿薬とは異なり、体内のカリウムが過剰に失われるのを防ぐ特性を持っています。また、その独特な作用機序は、生体における利尿効果のみならず、味覚にも影響を及ぼすことが知られています。

化学構造

アミロライドの分子構造は特徴的であり、ピラジン環という窒素を含む六員環構造と、グアニジン構造がアミド結合（カルボン酸とアミンの脱水縮合によってできる結合に類似）によって連結されています。この構造が、標的となるタンパク質への結合に重要です。化合物を特定するための国際的な番号であるCAS登録番号は [2016-88-8] です。

薬理作用と作用機序

アミロライドの主な薬理効果は利尿作用です。この作用は、腎臓の集合管などの部位に存在する「上皮性ナトリウムイオンチャネル（ENaC: Epithelial Sodium Channel）」を特異的に阻害することによって引き起こされます。ENaCは、尿から血液中へナトリウムイオンを再吸収する働きを担っています。アミロライドがENaCに結合してその働きを妨げると、ナトリウムイオンの再吸収量が減少します。

腎臓では、ナトリウムイオンの再吸収と引き換えにカリウムイオンや水素イオンを尿中に分泌するメカニズムが存在します（ナトリウム-カリウム交換など）。アミロライドによるENaCの阻害は、この交換の駆動力を弱めるため、カリウムイオンの尿中への排出も同時に抑制されます。結果として、体内のカリウムレベルを維持する、あるいは上昇させる傾向があるため、「カリウム保持性」利尿薬と呼ばれます。これは、フロセミドなどのループ利尿薬やチアジド系利尿薬がカリウムの排出を促進するのと対照的な作用です。

薬理作用以外の特性：味覚への影響

アミロライドは、その利尿作用のメカニズムに関連して、味覚にも特異的な影響を与えることが知られています。アミロライドの水溶液を舌に接触させると、塩味、特にナトリウムイオンによって感じられる塩味が著しく感じにくくなる、あるいは完全に抑制される現象が生じます。これは、ヒトの舌の味蕾にもENaCが存在し、これが塩味の受容機構の一部を担っているためです。アミロライドが舌のENaCをブロックすることで、塩味の伝達が妨げられると考えられています。さらに、塩味だけでなく、酸味に対する抑制効果も報告されています。この味覚への影響は、薬理学的な作用機序が全身の他の組織にも及ぶことの一例として興味深い性質です。

日本における状況

2015年時点の情報によれば、アミロライドは日本の医薬品としては厚生労働省の承認を得ていませんでした。したがって、この時点では日本国内で医療用医薬品として正式に流通・使用されることはありませんでした。最新の承認状況については、その後の規制動向を確認する必要があります。

関連薬剤

アミロライドと同様にカリウム保持性利尿薬に分類される薬剤としては、トリアムテレンなどが挙げられます。これらは作用機序は類似していますが、化学構造は異なります。カリウム喪失を避けつつ利尿効果を得たい場合などに、他の利尿薬と組み合わせて使用されることがあります。

参考文献

本記事の記述にあたっては、以下の専門書を参考にしています。

* 伊藤勝昭ほか編集 『新獣医薬理学 第二版』 近代出版 2004年 ISBN 4-87402-101-8

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