アムピロコス

アムピロコスは、古代ギリシア神話に登場する重要な人物の一人です。彼は高名な予言者アムピアラーオスと、その妻であるエリピューレーの間に生まれた息子であり、兄にアルクマイオーンがいました。彼の生涯は、家族の悲劇と自身の予言能力、そして新たな地の開拓に彩られています。

彼の運命は、母エリピューレーの行動によって大きく揺れ動きます。アムピロコスの父アムピアラーオスは、自身が参加すれば死が待っていることを予知していましたが、テーバイ攻めの戦いに赴くことを強く拒んでいました。しかし、母エリピューレーは、ポリュネイケースから美しいハルモニアーの首飾りを受け取ったことに唆され、夫が戦いに参加するよう説き伏せたのです。アムピアラーオスは、かつて妻の決定には逆らわないという誓いを立てていたため、しぶしぶながらこれを受け入れざるを得ませんでした。戦場へと向かう前に、彼は息子であるアルクマイオーンとアムピロコスに対し、もし自身が予言どおり命を落としたならば、母エリピューレーに復讐を果たすよう厳命しました。

テーバイ攻めの激戦の中、アムピアラーオスは敵であるペリクリュメノスの追撃を受けて窮地に陥ります。その時、ゼウスが雷霆を投下し、大地が裂けてアムピアラーオスは戦車もろともその姿を消しました。一説には、彼は神によって救済された、あるいは不死を得たと語られます。一方で、アムピロコス自身もまた、戦車に乗ったまま大地に飲み込まれたとする異説も伝わっています。さらに、この出来事は、母を手にかけ故郷を追われた兄アルクマイオーンの罪に対する罰と関連付けられる見解も存在します。このように、アムピロコスを取り巻く初期の伝承には、複雑かつ悲劇的な要素が含まれています。

アムピロコス自身も、父に劣らぬ卓越した予言者としての能力を持っていました。彼はその生涯において、各地に神聖な場所を建立したことで知られています。現在のトルコ南東部、ピュラモス川河口付近に位置するキリキアのマロスには、彼によって創建された神託所があったとされます。また、彼はモプソスと共に、リュディア地方のコロポンにアポローン神殿を建立したことでもその名を残しています。歴史家ヘロドトスの記述によれば、彼はさらに山脈を越えた先の、キリキアとシリアの中間に位置する場所に、ポセイドーン神殿を創建したとも伝えられています。

彼はまた、後にトロイア戦争の発端となるスパルタ王妃ヘレネーに求婚した英雄の一人であったという説も存在します。

トロイア戦争終結後、多くの英雄たちがそれぞれの故郷へと帰還しましたが、トゥキディデスの記録によれば、アムピロコスは故郷アルゴスへは戻らず、ギリシア北西のアムブラキア湾に新たな都市を建設しました。この都市は彼の名にちなんで「アムピロキア」と名付けられました。この地は建設された当初はギリシア文化圏の外にありましたが、後にアムブラキアの人々が定住するようになり、ギリシアの文化が受け入れられることとなりました。アムピロコスは、単なる英雄や予言者としてだけでなく、新たな都市を創建し、文化的な影響を及ぼした人物としても記憶されています。

彼の最期については、複数の異なる伝承が存在し、定かではありません。ある説では、彼は神アポローンの手にかかって命を落としたと語られています。また別の伝承では、モプソスとの間で争いが起こり、一対一の決闘の末、互いに傷つけ合い共に絶命したという壮絶な最期が伝えられています。しかし、これらの死に関する物語は、アムピロコス本人ではなく、彼と同名の甥に関する伝承が混同されたものである可能性も指摘されており、彼の真の最期は謎に包まれています。

このように、アムピロコスは高名な予言者の息子として生まれ、家族の悲劇を経験しつつ、自身も優れた予言能力を発揮し、各地に神聖な場所を築き、さらには都市の創建者としても名を残した、複雑な伝承を持つギリシア神話の登場人物です。

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