キリキア

キリキア：地中海と山脈が織りなす歴史の舞台

キリキアは、トルコ南部の地中海沿岸に広がる歴史的な地域です。キプロス島と向かい合い、シリアに隣接し、北にはカッパドキアを望む地理的条件から、古来より東西交易の要衝として栄えてきました。海岸沿いの肥沃なチュクロワ平野と、それを囲むトロス山脈の険しい山地という対照的な地形が、この地の歴史に深く関わっています。

キリキアの地理：平原と山脈の調和

キリキアは、平野と山地が織りなす多様な景観を持っています。肥沃なチュクロワ平野は、農業が盛んで、トルコ第4の都市であるアダナが位置する経済の中心地です。一方、トロス山脈は険しく、古くから「キリキアの門」と呼ばれる隘路が存在し、東西交易を制御する戦略的な要衝でした。古代ギリシャの歴史家ストラボンは、この地域を「山地のキリキア」と「平地のキリキア」とに分類しました。平野部は、山岳地帯が多いトルコにおいて貴重な平地であり、現在も活気に満ちた地域となっています。

キリキアの歴史：古代から近代まで

古代：東西文明の交差点

キリキアの歴史は古く、紀元前6世紀にはアケメネス朝ペルシアによって征服されました。その後、アレクサンドロス大王の遠征、セレウコス朝シリア、そしてローマ帝国と、多くの勢力の支配を受けました。イッソスの戦いなど、数々の歴史的出来事がこの地で繰り広げられました。特に、セレウコス1世が建設したセレウキアは、キリキア西部の沿岸都市として繁栄し、後にローマ帝国時代の海賊の拠点ともなりました。また、聖パウロの生誕地であるタルススは、ローマ属州キリキアの州都として栄え、キリスト教の伝播にも重要な役割を果たしました。

中世：キリキア・アルメニア王国の興亡

7世紀にはイスラム勢力の支配下に入りますが、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）のマケドニア朝による奪還、そしてアルメニア人勢力の台頭を経て、1198年、キリキア・アルメニア王国が建国されました。この王国は、地中海貿易で栄え、独特のアルメニア美術が発展しました。しかし、マムルーク朝やモンゴル帝国との戦いの末、1375年に滅亡します。この時代のキリキアは、アルメニア人だけでなく、ギリシャ人、アラブ人など多様な人々が暮らす多民族国家でした。王国の衰退とともに、住民の一部は西方に移住していきました。

近代：オスマン帝国と現代

15世紀以降、オスマン帝国の支配下に入ったキリキアは、第一次世界大戦後、一時的にフランスの委任統治下に置かれますが、1921年にトルコに返還されました。現在、かつての戦略的な要衝であった「キリキアの門」は、道路建設によってその役割を終えています。

キリキアの遺産

キリキアは、古代から現代に至るまで、多くの文明や勢力の興亡を経験してきた歴史の舞台です。その地理的条件と歴史的背景は、現在のアダナなどの都市の発展に影響を与え、豊かな文化遺産を残しています。古代都市の遺跡や、中世の城塞、そして活気あふれる現代都市の姿は、キリキアが持つ多様な魅力を物語っています。キリキアの歴史を学ぶことは、東西文明の交流の歴史を理解することにもつながります。また、キリキア・アルメニア王国の興亡は、小規模な国家が国際情勢の中でどのように生き残ろうとしたのかを考える上で貴重な事例です。

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