アムールとプシュケー、子供たち

『アムールとプシュケー、子供たち』（1890年）は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが制作した油彩画です。現在は個人蔵となっており、ブグローがフランス芸術家協会の会長を務めていた1890年のサロン・ド・パリに出品されました。

「アムール」はフランス語で「愛」を意味し、ここではローマ神話のクピドー（ギリシア神話のエロース）を指します。「プシュケー」は古代ギリシア語で「息」「生命」「魂」を意味し、ローマ神話のプシューケーを指します。本作は、幼い姿のアムールとプシュケーが抱擁し、接吻する様子を描いています。

ブグローは19世紀後半に活動した古典的様式の画家で、新古典主義の影響を受けています。本作では、泡の塊のような背景に人物が繊細に配置されています。当時人気の高かった、神であるクピドーと人間の王女プシュケーの禁断の恋の始まりを描いた作品です。

WebMuseumにおける誤情報

インターネット黎明期のバーチャル・ギャラリー「WebMuseum」で、本作は誤って1873年制作の「ファーストキス」として紹介されました。しかし、作品の右下には1890年の年号と作者の署名が確認できます。

画題：クピドーとプシューケーの物語

18世紀半ば、古代ギリシア・ローマ神話への関心が高まると、クピドーとプシューケーの物語を題材にした作品が数多く制作されました。この物語は、2世紀にアプレイウスが著した『変容（または黄金のロバ）』で語られています。

プシューケーはその美しさで人々に愛されましたが、それが美の女神ウェヌス（ギリシア神話のアフロディーテ）の怒りを買います。ウェヌスはクピドーに、プシューケーを醜い怪物と恋に落とすよう命じます。しかし、クピドーは自らの矢で傷つき、プシューケーと恋に落ちてしまいます。

クピドーはプシューケーに、決して自分の顔を見ないという条件で密かに結婚します。しかし、プシューケーは好奇心に負け、クピドーの顔を見てしまい、彼は去ってしまいます。プシューケーは恋人を求めて地上や地下世界を彷徨い、最終的に再会を果たし、永遠の命を与えられます。

神と人間という身分の違いや、ウェヌスの妨害を乗り越える二人の物語は、多くの人々を魅了しました。

本作でブグローは、クピドーとプシューケーを幼児として描いています。クピドーは、翼を持ち弓矢を持ついたずら好きな幼児として描かれることが多いですが、プシューケーも幼い姿で描かれるのは珍しい表現です。プシューケーが蝶の翅を持っているのは、アリストテレスが蝶を「プシューケー」と呼んだことに由来します。不死の存在となったプシューケーは、人間の魂の変容の象徴です。

登場人物を子供として描くことで、ウェヌスによって引き裂かれる前の、二人の無垢な姿を表現しています。この表現は、サロンで広く受け入れられました。ブグローは、若い恋人たちの姿でクピドーとプシューケーを描いた作品も残しています。

構成

縦長のキャンバスに、実物大よりも大きく描かれたクピドーとプシューケー。クピドーは右脚を伸ばし、左脚を雲にかけてバランスを取っています。二人は緩やかに抱擁し、クピドーがプシューケーの頬に軽いキスをしようとする瞬間が捉えられています。プシューケーはクピドーを拒むように目を伏せています。青い布が二人の背後から雲の上に広がっています。

主題を子供として描くことで、純潔を象徴する白い肌が輝き、翼も繊細に表現されています。パステルカラーと柔らかい筆致で、子供らしさと幼い恋の微笑ましさを引き出しています。恋物語では珍しい青を基調とした色彩は、禁断の恋という側面を遠ざけ、幼い恋という理念を強調しています。クピドーとプシューケーのふくよかな姿や、髪の毛、肌の質感などが丁寧に描き込まれ、観る者に安らぎを与えます。

その他のブグロー作品

ブグローは、クピドーとプシューケーの物語を題材にした作品を他にも制作しています。

Psyché et l'Amour（1889年サロン出品、1900年パリ万博出品）
Psyché（1892年）
* Le ravissement de Psyché（1895年サロン出品）

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