アメリカひじき

アメリカひじき

『アメリカひじき』は、野坂昭如による短編小説で、彼の戦後の焼跡闇市体験を基にしています。この作品では、敗戦を経た少年時代の思い出と、アメリカ人夫婦を家に招待することになった主人公の心情が交錯します。物語は、戦後22年の時点から回想される形式で、アメリカに対する複雑な感情をユーモラスに描写しています。

物語の内容

物語の主人公、俊夫は、妻の京子と幼い息子の啓一とともに東京に住む36歳の男性です。彼は妻と子どもをハワイ旅行に行かせた代わりに、久しぶりに自宅にアメリカ人老夫婦・ヒギンズ夫妻を招待します。彼は、戦後の日本でアメリカ兵との交流や闇市に関わっていた過去を振り返りながら、妻たちとともにこの外国人をもてなします。

俊夫は22年前の敗戦時の出来事を思い出します。彼はかつてアメリカ兵に媚びを売って補給物資を手に入れた経験があり、その時、アメリカから送られた「ブラックティー」を「ひじき」と勘違いして食べたエピソードが象徴的です。これは、アメリカに対するコンプレックスとともに、貧しい戦後の焼け跡での辛さを象徴しています。

ヒギンズ夫妻を迎える準備をする中で、俊夫は当初の決意が揺らいでいきます。ヒギンズが日本語を使って優しく挨拶してくると、俊夫の心の中の決意は崩れてしまいます。彼は日本を誇る気持ちで一生懸命もてなすものの、ヒギンズの反応は平然としたもので、その態度に不快感を抱き始めます。京子も急にストレスが募り、ヒギンズ夫妻に対する不満が爆発します。

作者の意図と作品の背景

この小説は、戦後に生きた世代の複雑な心情を映し出しています。1967年当時は、戦争を経験した世代と、その影響をあまり受けていない若者たちの違いが際立つ時代でした。野坂は、この作品を通じて、アメリカに対する憧れや同時に伴う抵抗感といった二面性を描き出しています。物語の中で、俊夫は自らの過去に対する後悔や思いを抱えながら、ヒギンズ夫妻との接触を通じて自己を見つめなおしていきます。

キャラクター

登場人物には、俊夫の家族やヒギンズ夫妻の他にも多くの人々がいます。俊夫は戦後の混乱の中で、家族を支えるべく様々な経験を重ねてきました。京子はその妻として家族の調和を図ろうとするものの、次第に苛立ちが募っていきます。一方、ヒギンズ夫妻は、アメリカの富と特権の象徴のような存在として描かれ、俊夫たちの心に抵抗感を与えます。

作品の評価

『アメリカひじき』は、発表当初から高い評価を受け、1968年には直木賞を獲得しました。作品は、作者の戦争体験や戦後の社会状況を反映し、独特の文体と多層的なテーマで読者を惹きつけています。野坂昭如は自らの体験を色濃く反映させながら、ユーモアを交えた語り口で日本の戦後社会を描写しており、時代背景や人物の心理が巧みに表現されています。

映画化と影響

原作は1970年に映画化され、『喜劇 頑張れ!日本男児』として公開されました。また、ラジオドラマ化もされ、その際には大切なテーマが多くの人々に伝えられました。この作品は、時代を越えた普遍的なテーマを抱えており、今日でも多くの人々に影響を与え続けています。その独特な語りとメッセージは、今を生きる私たちにも深い考察を促します。

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