アメリカンバー

ウィーンの隠れた名所：アメリカンバー

ウィーン中心部、賑やかなケルントナー通りの脇道にひっそりと佇む小さなバー、『アメリカンバー』（もしくはケルントナー・バー）をご存知でしょうか？「ロース・パー」や「ロース・アメリカンバー」と呼ばれることもあるこのバーは、ウィーン建築における初期モダニズムの傑作として知られ、建築史に名を残すアドルフ・ロースによって1908年に設計されました。

ロースのアメリカ合衆国滞在経験（1893年から1896年）が色濃く反映されたこのバーは、わずか4.4m×6.0m×4.1mという小さな空間ながら、その洗練されたデザインと巧みな空間演出で訪れる者を魅了します。星条旗を思わせるファサードは、一見キッチュな印象を与えますが、そのデザインにはロースの独創的なセンスが光ります。

内部は、天井に黄褐色の大理石、柱と梁に黒の大理石、そして壁にはマホガニーが使用され、重厚感と洗練さを兼ね備えた空間を演出しています。特に目を引くのは、壁面上部に貼り巡らされた鏡です。鏡の反射によって空間は無限に広がり、実際の広さ以上に広く、奥行きを感じさせる錯覚を生み出します。この巧みな空間演出は、限られたスペースを最大限に活用するロースの建築技術の高さを示しています。

かつてはファサードの改修なども行われましたが、1989年にはブルクハルト・ルクシュチコによる修復工事が行われ、元の姿に蘇りました。修復の際には、ヘルマン・チェコが1985年の展覧会のために復元したエントランスの額絵も飾られ、歴史的価値を高めています。

アメリカンバーは、単なる飲食店としてだけでなく、ウィーンの建築文化を象徴する貴重な建造物として、多くの観光客や建築愛好家を引き付けています。そのコンパクトながらも洗練された空間は、現代建築にも通じる普遍的な魅力を放ち、訪れる者に忘れられない印象を与えてくれるでしょう。

バーの公式サイト（ドイツ語）や、ヴットルヴィオによる絵、ウィーン工科大学による360°撮影など、様々な情報源から、この歴史的建造物の魅力をより深く知ることができます。 時間をかけてじっくりと、この小さな空間の中に凝縮されたロースの建築思想を味わってみてください。小さなバーの中に、建築の歴史とウィーンの文化が息づいています。 それは、観光ガイドブックには載っていない、隠れた名所と言えるでしょう。

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