アメリカ生物医学先端研究開発局

BARDA（生物医学先端研究開発局）

アメリカ生物医学先端研究開発局（Biomedical Advanced Research and Development Authority、略称：BARDA）は、アメリカ合衆国保健福祉省傘下の主要機関の一つです。その設立目的は、自然発生的な感染症のパンデミック、生物・化学・放射性物質・核物質を用いたテロ攻撃といった、国家的な公衆衛生上の危機事態に備え、国民の生命と健康を守るために必要な医療対策を迅速に開発し、確保することにあります。

具体的には、こうした緊急時に対応するための新しいワクチン、治療薬、診断法などの研究開発プロジェクトに対し、大規模な資金提供を行います。また、学術機関、政府系研究機関、民間の製薬企業、バイオテクノロジー企業など、国内外の多様な組織間の連携を促進し、開発プロセスを加速させるための橋渡し役としても重要な機能を担っています。

これまでにBARDAが対応してきた健康危機には、急性放射線症候群、エボラ出血熱などがあり、特に近年の活動としては、世界規模で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症（COVID-19）への対策が挙げられます。

新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルスのパンデミック発生を受け、BARDAは対策の中核を担う組織の一つとなりましたが、その過程でいくつかの重要な出来事がありました。

局長解任とその波紋

2020年4月、当時BARDAの局長を務めていたリック・ブライト氏が突然解任され、より権限の限定的なポストへ異動させられるという事態が発生しました。保健福祉省の生え抜き専門家であったブライト氏は、この異動について不当性を訴え、翌5月14日には下院の公聴会で証言を行いました。公聴会で氏は、当時のトランプ政権には新型コロナウイルス対策に関する包括的な計画が存在せず、国民に必要なワクチンを迅速に供給する準備ができていないと厳しく警告しました。自身の解任理由については、科学的根拠が不十分な抗マラリア薬を新型コロナ治療薬として推奨する政権の意向に、科学的見地から反対したためであり、政治的な圧力が背景にあったと主張し、大きな波紋を呼びました。

ワクチン開発への巨額支援

BARDAは、新型コロナウイルスパンデミック収束に向けた最も重要な手段として、ワクチン開発を強力に推進しました。安全で有効なワクチンの迅速な実用化を目指し、世界各国の主要な製薬企業に対し、開発資金や製造体制構築のための大規模な資金援助を実施しました。代表的な例としては、イギリスの大手製薬会社アストラゼネカ社に対し、オックスフォード大学と共同で進めていたワクチン候補の研究開発および製造に関し、10億ドル（当時の日本円で約1000億円）を超える巨額の支援を行ったことが公表されています。この支援は、ワクチンの早期臨床試験から最終承認、そして実用化に至るまでのプロセスを加速させる目的で行われました。この他にも、フランスのサノフィ社など、複数の国際的な製薬企業に対しても同様の資金援助を実施し、世界のワクチン開発競争を側面から支えました。

日本企業との連携事例

BARDAはアメリカの機関ですが、国際的な公衆衛生対策においては海外機関や企業とも連携しています。日本企業との関わりとしては、2016年9月2日に、日本の大手製薬会社である武田薬品工業株式会社（タケダ）が、ジカ熱ワクチンの開発プロジェクトに関する助成対象としてBARDAに選定された事例があります。タケダが進めていたジカ熱ワクチン開発プロジェクトに対し、BARDAは初期開発段階、特にヒトでの安全性や有効性を確認する臨床第1相試験までの費用を賄う目的で助成金を交付することを決定しました。最初の助成金として1,980万ドル（当時の日本円で約20億円）が提供される計画が発表され、これは日本の製薬企業がアメリカ政府機関から直接、感染症対策の開発支援を受けた notable な事例の一つと言えます。

このように、BARDAは将来の健康危機に備えるための医療対策開発・確保を任務とし、国内外のパートナーと協力しながら、重要な役割を果たしています。

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