アメリカ陸軍訓練教義コマンド

アメリカ陸軍訓練教義コマンド（TRADOC）

アメリカ陸軍訓練教義コマンド（United States Army Training and Doctrine Command、略称：TRADOC）は、アメリカ陸軍における人材の募集、訓練、教育を包括的に担当する主要な司令部です。その最も重要な役割は、陸軍に所属する全ての部隊が、現在直面している、あるいは将来予測されるあらゆる紛争において敵を阻止し、勝利を確実に得るための能力を絶えず発展させ、組織全体の変革を推進する中核的な原動力となることです。

設立の背景

TRADOCは、ベトナム戦争後の大規模な陸軍再編の一環として設立されました。それ以前は、アメリカ合衆国本土における陸軍の主要な活動は、バージニア州フォートモンローに司令部を置いていた大陸軍司令部（CONARC）が担っていました。しかし、CONARCはその責任範囲と指揮統制範囲が広範に及び過ぎたため、特定の業務に効果的に焦点を当てることが難しい状況でした。

この問題を解決するため、1973年にCONARCは解体され、その任務は新設されたTRADOCとアメリカ陸軍総軍（FORSCOM）に機能別に分割・再分配されました。また、兵器や戦術の研究開発を担当していた米陸軍戦闘開発コマンド（CDC）も廃止され、その戦闘開発任務はTRADOCに引き継がれました。

TRADOCは、CDCから戦闘開発に関する任務を継承するとともに、CONARCからは個々の兵士や部隊の訓練に関する任務を引き継ぎました。さらに、CONARCが指揮していた主要な訓練センターや職種学校といった教育施設の指揮責任もTRADOCに移管されました。一方、FORSCOMはCONARCが指揮していた全ての師団や軍団、およびそれに関連する施設の指揮と、部隊の即応態勢に関する作戦責任を担うことになりました。この再編は、アメリカ合衆国本土における陸軍の機能を明確に分ける画期的な改革でした。

組織と活動

TRADOCは、その広範な任務を遂行するために、多数の施設と組織を管轄しています。全米に1,400か所以上の募集事務所を運営し、将来の兵士を確保するための活動を行っています。また、大学に設置されている予備役将校訓練課程（ROTC）も937校を管轄しており、将来の士官候補生を育成しています。

さらに、37校の常備陸軍学校を運営し、様々な職種や階級の兵士・士官に対する専門教育を提供しています。年間を通じて、約12万2,000名以上の新兵が参加する陸軍の基礎訓練（Basic Combat Training）や、常時8つの州で行われる初期軍事訓練を監督しています。これらの訓練を含め、年間50万人以上の兵士や学生がTRADOCの管理下で訓練や教育を受けています。

TRADOCの重要な機能の一つは、陸軍の教義と戦術を研究・開発する拠点としての役割です。8つの戦闘関連の中核的研究拠点を指導しており、それぞれの分野における教義の策定と教育の質の向上を図っています。これらの中核的研究拠点には、以下のような専門分野が含まれます。

陸軍能力総合センター（2018年12月7日にアメリカ陸軍将来コマンドへ移管）
非対称戦グループ
即応展開フォース (ARFORGEN)
諸職種協同センター
ミッション・コマンド中核的研究拠点
機動中核的研究拠点（歩兵学校、機甲学校など）
火力中核的研究拠点（防空学校、砲兵学校など）
航空中核的研究拠点（航空学校など）
サイバー中核的研究拠点（サイバー学校、通信学校など）
諜報中核的研究拠点（諜報学校など）
機動支援中核的研究拠点（工兵学校、特殊武器学校、憲兵学校など）
後方支援中核的研究拠点（武器学校、輸送学校、需品学校、兵士支援研究所など）

これらの教育・研究活動は国内にとどまらず、117か国からの留学生を受け入れて教育を提供しており、国際的な軍事交流にも貢献しています。また、他の軍種や省庁との連携を図る統合または省庁間教育も数千名に対して実施しています。

TRADOCは、上級曹長軍学校や陸軍募集コマンド、陸軍士官候補生コマンド、初期軍事訓練センターといった主要なコマンドや組織も傘下に置いており、陸軍の人的基盤と戦術・教義の基盤を築く上で不可欠な役割を果たしています。近年では、陸軍のデジタルプレゼンスを高めるためにアメリカ陸軍eスポーツチームの活動も支援しています。

TRADOCは、フォートモンロー跡地に所在しており、その歴史的な場所から陸軍の未来を形作る重要な役割を担い続けています。その任務は、単に兵士を訓練するだけでなく、変わりゆく戦場の要求に適応し、常に進化し続ける陸軍を創造することにあります。

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