アメーバ属

アメーバ属 (Amoeba)

概要

アメーバ属（学名：Amoeba）は、真核生物の主要な系統の一つであるアメーボゾア門に分類される単細胞の原生生物群です。一般的に「アメーバ」という言葉は、特定の分類群に限らず、不定形な体で偽足（ぎそく）を伸ばして移動する多くの単細胞生物を指す広義の名称として使われます。しかし、このアメーバ属こそが、その広義の「アメーバ」の最も代表的かつ典型的な存在として知られています。特に、アメーバ属の中でもオオアメーバ（Amoeba proteus）は、教材などでもよく観察される種であり、その特徴がアメーバという生物のイメージを形成しています。そのため、アメーバ属は「オオアメーバ属」と呼ばれることもあります。

特徴

アメーバ属の最も顕著な特徴は、その不定形な体です。細胞は細胞壁を持たず、細胞膜と細胞質から構成されるため、外部の刺激や内部の細胞質流動によって絶えずその形を変化させます。この形状の変化は、細胞が移動したり、餌を捕まえたりする際に重要な役割を果たします。

移動や捕食に用いられるのが「偽足」です。アメーバ属は、特に太く葉っぱのような形をした「葉状偽足」をゆっくりと伸ばします。細胞質が特定の方向に流れ込むことで偽足が形成され、この偽足を固定して他の細胞質を引き寄せることで細胞全体が移動します。また、この偽足は、周囲のバクテリアや微細な藻類などの餌を包み込むように伸ばし、細胞内に取り込む「食作用（しょくさよう）」にも利用されます。この捕食方法は、アメーバ属が従属栄養生物であることを示しています。

細胞内には、遺伝情報を収める一つの大きな核が存在します。多くの原生生物に見られる特徴ですが、アメーバ属も単核性であり、これが遺伝情報の発現や細胞の維持管理に不可欠な役割を担っています。また、余分な水分を排出するための収縮胞（しゅうしゅくほう）なども観察されます。

歴史

アメーバ属の存在が科学的に認識されたのは、比較的早い時期でした。1757年、ドイツの博物学者であるアウグスト・ヨハン・ローゼンホッフ（August Johann Rösel von Rosenhof）によって初めて観察され、記録されました。彼はこの奇妙な、絶えず形を変える微小な生物を、ギリシャ神話に登場する変幻自在の海神プロテウスにちなんで「Proteus animalcule」（プロテウスのような小動物）と呼びました。

その後、研究が進み、1822年にフランスの博物学者ジャン・バティスト・ボリ・ド・サン＝ヴァンサン（Jean Baptiste Bory de Saint-Vincent）によって、現在の学名である「Amoeba」が正式に命名されました。この名称は、ギリシャ語で「変容」「変化」を意味する単語「amoibè (αμοιβή)」に由来しており、まさにこの生物の最大の特徴である形態の不定性を的確に表現しています。

分類と代表種

アメーバ属は、アメーボゾア門のエントアメーバ綱（過去の分類では肉質虫綱や根足虫綱の一部）に属します。淡水環境に広く生息しており、池、沼、水田などの底や水草の表面によく見られます。増殖は主に二分裂による無性生殖で行われます。

アメーバ属にはいくつかの種が知られており、形態的な特徴や遺伝情報に基づいて分類されています。代表的な種としては、前述のオオアメーバ（Amoeba proteus）があり、細胞サイズが比較的大きく、観察に適しているため研究や教育によく用いられます。その他にも、Amoeba discoides、Amoeba dubia、Amoeba gorgonia、Amoeba guttula、Amoeba limicola、Amoeba radiosa、Amoeba spumosa、Amoeba striata、Amoeba verrocosa、Amoeba vespertilioといった種が知られています。

これらのアメーバ属は、水域における食物連鎖の一端を担っており、環境中の微生物を捕食することで生態系の中で一定の役割を果たしています。そのシンプルな形態と多様な生命活動は、単細胞生物の研究において重要なモデル生物となっています。

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