アラカン王国

アラカン王国は、15世紀初頭から18世紀末にかけて、現在のミャンマー西部、ラカイン州（かつてのアラカン地方）に存在した仏教を国教とする王朝です。その歴史の中で、首都はダニヤワディー、ワイタリ、レイムロと変遷しましたが、最終的にはミョーハウン（現在のミャウウー）に落ち着きました。

王国が建国されたのは1429年、ミン・ソー・モンが王位に就いたことに始まります。翌1430年にはミョーハウンに遷都し、ここが王朝の中心地として繁栄することになります。この時代はまさに大航海時代と重なり、アラカン王国、特に首都ミョーハウンは、その地の利を生かして重要な商業港として発展しました。アラビアやヨーロッパといった遠隔地との海上交易網に深く組み込まれ、ラカイン族の歴史において「黄金時代」と位置づけられています。東西の物資や文化が行き交い、王国は経済的な繁栄を享受しました。

しかし、王国の歴史は常に平穏だったわけではありません。17世紀後半には衰退の兆しが見え始めます。内部では王位を巡る争いや民衆の暴動が頻繁に発生し、政治的な不安定さが常態化していました。外部からの圧力も増大し、特に強大化する隣国との関係が悪化します。この時期には、ムガル帝国の皇子シャー・シュジャーがアラカンに亡命するという事件が起こります。当時の君主サンダ・トゥダンマは彼を一時保護しましたが、後に殺害したとされています。また、1666年には南のムガル帝国によって重要な拠点であったチッタゴンを奪われるなど、領土の縮小と影響力の低下が進みました。一時的にはポルトガル人がアラカン領内に交易のための施設を設置するなど、ヨーロッパ勢力との関わりも確認されていますが、これも王国の自立性を脅かす要因となり得ました。

17世紀を通じて衰退の一途をたどったアラカン王国は、内部分裂が深刻化する中で、東から勢力を拡大してきたビルマのコンバウン朝の脅威にさらされます。そして、マハ・タンマダ王の治世下、1785年1月2日（一部の記録では1784年12月31日ともされます）、コンバウン朝の侵攻を受け、首都ミョーハウンが占領され、王国は滅亡しました。この際、アラカン王国の至宝とされていたマハムニ仏が、戦利品としてビルマに持ち去られました。

アラカン王国の滅亡は、この地域における地政学的なバランスを大きく変化させる出来事でした。それまで緩衝地帯として機能していたアラカンがなくなったことで、勢力を拡張しつつあったビルマのコンバウン朝と、インドを支配しつつあったイギリス東インド会社の領土が直接国境を接することになります。これにより両者の間に緊張が高まり、将来的な紛争の火種となりました。実際に、王国滅亡後にビルマに持ち去られたマハムニ仏の返還要求など、様々な要因が複合的に絡み合い、最終的には19世紀初頭に勃発する第一次英緬戦争の一因となったと考えられています。

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