アラバスター (漫画)

『アラバスター』

『アラバスター』は、1970年から1971年まで『週刊少年チャンピオン』で連載された手塚治虫による漫画です。この作品は、裏切りや冤罪により人生を狂わされた主人公ジェームズ・ブロックが、彼の手にした特殊な光線銃を駆使しながら、復讐の道を歩む様を描いています。物語は、彼の恨みと闘い、周囲の人々を巻き込む犯罪が繰り広げられる中で、人間の心に潜む暗い側面に焦点を当てています。

概要

物語の中心には、アメリカの金メダリストであるジェームズ・ブロックと、彼を取り巻く人々、特に彼が関わることになるヒロイン小沢亜美がいます。過去にスーザンという女優からの心ない言葉により彼女との関係が崩れ、さらには自動車事故を巡る裁判で彼女が嘘をついたことで冤罪に陥ります。この事件をきっかけに、彼は刑務所で元科学者のF博士と出会い、彼の研究したF光線によって自身の醜い姿を変える道を選びますが、それは彼をさらに絶望へ導くことになります。

手塚治虫は、この作品を通じて、江戸川乱歩のようなグロテスクな表現を追求しようとしたものの、社会情勢や自身の内面的葛藤から救われないニヒリズムを色濃く反映させる形となったと述べています。『アラバスター』は、同時期に連載された『バンパイヤ』や『MW（ムウ）』に見られるような、人間の悪をテーマにした犯罪サスペンス作品と類似性があります。

あらすじ

物語は、金メダリストであるジェームズ・ブロックが、女優スーザン・ロスからの裏切りによってすべてを失い、刑務所生活を強いられるところから始まります。彼はF博士から受け取った光線銃を使い、皮膚を失ったことで真の姿を得ようとしますが、彼の努力は虚しく、結果として彼は醜悪な形になります。彼は復讐心に取り憑かれ、スーザンや「美」に対する恐れを抱き、仲間たちとともに凶行を重ねていきます。

登場人物

• - アラバスター (ジェームズ・ブロック): 物語の主人公であり、身体能力に優れる金メダリスト。彼の復讐心は物語の中心的なテーマです。
• - 小沢亜美: F博士の孫娘で、透明な皮膚を持った少女。彼女はアラバスターの仲間となり、次第にその悪事に巻き込まれていきます。
• - ゲン: 不良少年で、後に亜美を愛するようになる。彼はアラバスター一味の中で、正義感を持ちながらも葛藤を抱えています。
• - ロック・ホーム: FBIの捜査官で、亜美を辱めた元凶。彼の存在が、物語の悲劇を一層深めます。

他にも小沢カニ平や、物語を彩る多くのキャラクターが登場し、それぞれの人生や感情が交錯します。物語は皮肉的な結末を迎え、自己破滅的な運命を辿るキャラクターたちの姿が描かれます。この作品は、手塚治虫の深い洞察と人間の心の複雑さを映し出しています。

単行本とミュージカル

『アラバスター』は、単行本化が進む中、いくつかの版が発行されました。特に2018年にはオリジナル版が登場し、作品の本質に触れる機会を提供しました。また、2022年にはミュージカル化され、手塚治虫の作品が新たに舞台で再現される形でも話題を呼びました。音楽や演出、キャストの個性が融合したこの舞台は、原作の魅力を再考させる良い機会でした。

このように『アラバスター』は、手塚治虫が描く人間の暗い心、復讐の連鎖、そして美への執着とその破滅を寓意的に表現した作品なのです。

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