アランツァス聖堂

アランツァス聖堂（バスク語: Santuario de Nuestra Señora de Aránzazu, スペイン語: Santuario de Nuestra Señora de Aránzazu）は、スペイン北部、バスク自治州ギプスコア県のオニャティに位置する、フランシスコ修道会に属するカトリックの聖堂です。ギプスコア県の守護聖人とされるアランツァスの聖母を主な崇敬対象とし、バスク地方における信仰の中心地の一つとして、特にギプスコア県民から深く信仰されています。アランツァス教会堂、アランツァスの聖母聖堂などとも呼ばれます。

立地

この聖堂は、雄大なアイスコリ山系の中腹にあたる標高約750メートルの高原に静かに佇んでいます。オニャティの中心部からはおよそ10キロメートル離れた山中にありますが、良好な道路インフラが整備されているためアクセスは比較的容易です。その静寂で穏やかな雰囲気と、ギプスコア県の守護聖人を祀る場所としての重要性から、バスク地方内はもとより、スペイン各地や国外からも多くの信奉者や観光客が年間を通じて訪れます。また、アイスコリ山系へのトレッキングや縦走の拠点としても知られており、聖堂周辺はウルビア牧草地やアロニャ山塊などへと続く複数の山岳ルートの出発点となっています。

名称の由来

アランツァスという名称の由来には、いくつかの説が伝えられています。最もよく知られている伝承によれば、1469年に羊飼いのロドリゴ・デ・バランサテギがこの地でサンザシの茂みの中に立つ聖母マリアの像を発見した際、「Arantzan zu?!」（バスク語で「そなた、その中のそなたか！？」あるいは「サンザシの中にそなたが？」といった驚きや問いかけを表す言葉）と叫んだことに由来するとされています。この羊飼いの言葉がそのまま地名、そして聖堂の名になったという物語です。一方、言語学的な視点からは、バスク語で「サンザシ」を意味する「arantza」と、場所を示す接尾辞「zu」が組み合わさった「arantza + zu」、つまり「サンザシに満ちた場所」に由来すると説明されています。アランツァスという名は、アランツァ（Arantza）やアランツァス（Arantzazu）といった形で、スペイン、特にビスカヤ県やギプスコア県で一般的な女性名としても見られ、スペイン語の音声学に沿ったアランチャ（Arancha）という形も広く使われています。

歴史

聖母マリアの顕現伝説が伝わる1468年（伝承では1469年とされることもあります）以降、この地にはフランシスコ修道会によって聖堂が創建されました。歴史的には、後にイエズス会を創設するイグナチオ・デ・ロヨラが、1522年に修道生活に入ったばかりの頃にこの聖堂を訪れた記録が残っています。聖堂は幾度かの火災に見舞われ、創建当初の建物は完全に焼失してしまいましたが、20世紀半ばの1950年に大規模な再建計画が着手されました。この再建プロジェクトは、当時のバスク地方を代表する才能溢れる芸術家たちが結集して行われたことで特筆されます。

主要な建築家としてフランシスコ・ハビエル・サエンス・デ・オイサとルイス・ラオルガが設計を指揮し、多くの芸術家が各部分の制作に携わりました。

- ルシオ・ムニョス: 祭壇上部の荘厳な装飾を担当
- ホルヘ・オテイサ: 聖堂外部のファサードを飾る十四人の使徒像の彫刻を制作
- エドゥアルド・チリーダ: 聖堂の入口扉を手掛ける
- ネストル・バステレチェア: 地下聖堂の絵画を制作
- シャビエル・アルバレス・デ・エウラテ: 聖堂内の美しいステンドグラスを制作

これらの芸術家の協働により、1955年にバシリカの建物が完成しました。再建された聖堂は、その宗教的な機能だけでなく、20世紀バスク芸術における重要なモニュメントとして、国内外で高い評価を受けています。全体的な工事は一旦中断された期間を経て、聖母顕現500周年にあたる1969年に完了しました。

アランツァス聖堂は、宗教的な役割だけでなく、バスク地方の歴史と文化においても重要な舞台となりました。1968年には、バスク語の標準化を目指すエウスカルツァインディア（バスク語アカデミー）が、ここで共通バスク語の骨子となる提言を行い、現代バスク語の発展に大きな影響を与えました。また、1970年代には、バスク地方の分離独立運動とも関わりを持つようになります。バスク分離独立主義組織ETAは、ホルヘ・オテイサ作の十四人の使徒像のうち、特にピエタ像を、治安警察に殺害された活動家へのオマージュと解釈するなど、聖堂の芸術作品に政治的な意味合いを付与した時期がありました。さらに、かつてはこの聖堂が、ETAとスペイン政府当局との間における、公式・非公式な交渉や対話のための場所として機能した時期もあり、バスク地方の困難な歴史の一端を担いました。

1995年には、バスク地方出身の映画監督アレックス・デ・ラ・イグレシアによるSFホラーアクションコメディ映画『ビースト獣の日』の舞台の一つとしても登場し、そのユニークな建築が映画の世界観を彩りました。アランツァス聖堂の主要な祝祭は毎年9月9日に行われ、多くの巡礼者や参拝者が集まります。

このように、アランツァス聖堂は単なる信仰の場に留まらず、その壮大な建築と芸術、そしてバスク地方の歴史と文化が交錯する特別な場所として、今日に至るまで多くの人々を惹きつけています。

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