アラン・メルツァー

アラン・メルツァー（Allan H. Meltzer）は、1928年2月6日にアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンに生を受け、2017年5月8日にこの世を去った、20世紀後半を代表する経済学者の一人です。特にマネタリストとしての思想で広く知られ、その学術的な探究はマクロ経済学、金融経済学、そして政治経済学といった多岐にわたる分野に及びました。

略歴と学術キャリア

メルツァーの学術的な道のりは、1948年にデューク大学で経済学の学士号（A.B.）を取得したことから始まります。その後、カリフォルニア大学ロサンジェルス校（UCLA）で経済学の修士号（M.A.）を1955年に修了し、1958年には同大学で博士号（Ph.D.）を取得しました。博士課程修了前には、ペンシルヴェニア大学ワートン・スクールで講師を務めるなど、教育者としてのキャリアも早期にスタートさせています。

彼のキャリアにおいて中心的な役割を果たしたのが、ピッツバーグにあるカーネギー工科大学（現在のカーネギーメロン大学）です。1957年に助教授として着任して以来、准教授を経て1964年には教授に昇任しました。1967年の大学改称後も、フォード冠教授やモーリス・フォーク冠教授など、重要なポストを歴任し、長きにわたり同大学で研究と教育活動を展開しました。1980年代初頭にはオーリンビジネススクールでも教鞭をとりましたが、その後カーネギーメロン大学に戻り、政治経済・公共政策担当のユニバーシティ・プロフェッサーとして、亡くなる直前まで精力的に活動を続けました。

主要な貢献と著作

アラン・メルツァーは、マネタリストとして、金融政策の役割やその経済への影響について深く研究しました。彼の研究は、特に金融政策が物価安定や経済成長に与える影響に焦点を当てており、ケインズ経済学に対するマネタリストの見解を展開したことでも知られます。カール・ブルンナーとの共同研究も多く、金融市場や金融政策の分析において重要な貢献をしました。

彼の学術的な業績の中でも特筆すべきは、アメリカの中央銀行である連邦準備制度（Fed）の歴史を詳細かつ包括的に記述した大著『A History of the Federal Reserve』です。この著作は、Fedの創設期から現代に至るまでの政策決定プロセスやその背景を克明にたどり、金融政策史研究において必読の文献となっています。全3巻からなるこの歴史書は、彼のライフワークとも言える記念碑的な著作です。

他にも、『Keynes' Monetary Theory: A Different Interpretation』や、カール・ブルンナーとの共著である『Monetary Economics』、『Money and the Economy』など、金融理論やマクロ経済学における重要な書籍を多数執筆・編纂しています。また、日本の「金融研究」誌にも複数の論文を発表しており、日本経済や金融政策についても分析を行っています。

公的活動と影響力

メルツァーは、学術的な活動にとどまらず、多くの公的な役割も担いました。日本銀行の海外客員研究員（1984-1985年）や海外顧問（名誉アドバイザー、1986-2002年）を務めたことは、日本との関わりを示す重要な点です。また、アメリカの議会予算局への経済諮問委員団のメンバー（1995-2009年）や、ニューヨーク連邦準備銀行の経済諮問委員（2009年）としても活動し、政策決定者に対して専門的な助言を行いました。

彼は主要な経済学会でも活躍し、西部経済学会会長（1984-1986年）、アメリカ経済学会副会長（1989-1990年）、国際大西洋経済学会会長（1999-2000年）などを歴任しました。2002年にはアメリカ経済学会のディスティングウィシュト・フェロー（卓越会員）に選出され、2003年には国家ビジネス経済学会よりアダム・スミス賞を受賞するなど、その功績は広く認められています。

アラン・メルツァーは、金融政策の透明性と説明責任の重要性を訴え、学術的な理論を現実の政策課題に結びつけることに関心を持ち続けました。彼の研究と提言は、世界各国の中央銀行の政策運営や、金融システムの安定化に向けた議論に大きな影響を与えました。経済学界における彼の地位は揺るぎないものです。

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