アリ・マフディ・ムハンマド

アリ・マフディ・ムハンマド：混迷のソマリアにおける大統領

アリ・マフディ・ムハンマド（1939年1月1日 - 2021年3月10日）は、ソマリアの激動の時代に生きた政治家、実業家です。モハメド・シアド・バーレ大統領を追放後、大統領就任を宣言しましたが、その権力は限定的なものでした。彼の生涯は、ソマリア内戦の複雑さと、国家再建の難しさを象徴しています。

生い立ちと初期のキャリア

アリ・マフディ・ムハンマドは、イタリア領ソマリランドのジョハールで生まれました。ハウィエ氏族アブガル支族の出身で、スンナ派のイスラム教徒でした。実業家としてモガディシュでホテルを経営し、政界に進出する以前から一定の地位を築いていました。

統一ソマリ会議（USC）での台頭

1980年代後半、バーレ大統領の独裁体制が弱体化すると、ソマリア各地で抵抗運動が活発化しました。その中で、ハウィエ氏族を基盤とする統一ソマリ会議（USC）は、首都モガディシュに近いという地の利を生かし、大きな影響力を持つようになりました。アリはUSCの有力メンバーとして活動しましたが、モハメッド・ファッラ・アイディードとの権力闘争が、その後のソマリアの混迷を深めることになります。USCは、アリ・モハメド・ワーディグリーが設立し、後にアイディードが軍事部門のトップに就任。

アリとアイディードは、氏族の出身や立場（アリは事務方、アイディードは軍事方）の違いから対立を深めました。

大統領就任と内戦の激化

1991年1月、USCはモガディシュを制圧し、バーレ大統領を国外に追放しました。アリは1月28日に大統領就任を宣言し、ジブチ会議で暫定大統領として承認されました。しかし、アイディードはこの宣言を認めず、両派の武力衝突が勃発。ソマリアは内戦状態に陥りました。国連は調停に乗り出し、国際連合ソマリア活動（UNOSOM）を開始しましたが、事態は好転しませんでした。アメリカ軍主導の多国籍軍（UNITAF）による「希望回復作戦」も、当初の目的を達成することはできませんでした。

1993年10月には、モガディシュの戦闘で多数の死傷者が出る事態となり、国連の活動は縮小。1994年にはアメリカ軍が撤退し、1995年には国連軍も撤退しました。アイディードは1995年に大統領就任を宣言しましたが、アリとの抗争は収まらず、ソマリアは無政府状態に陥りました。

その後の政治活動と晩年

2000年、ジブチでソマリアの暫定大統領選挙が行われ、アリも候補者の一人となりましたが、立候補を辞退。アブディカシム・サラ・ハッサンを支持し、彼が暫定大統領に選出されました。しかし、この暫定国民政府も実権を持つことはできませんでした。2004年には、暫定連邦政府が発足し、アリは国民和解委員会の議長に選出されました。2007年には、国民和解会議の和平協定に署名しましたが、ソマリアの安定には至りませんでした。

2021年3月10日、アリ・マフディ・ムハンマドは新型コロナウイルス感染症により、ナイロビで死去しました。82歳でした。

アリ・マフディ・ムハンマドの生涯は、ソマリア内戦の悲劇と、国家再建の困難さを物語っています。大統領として国をまとめることはできませんでしたが、その後のソマリアの政治に大きな影響を与えた人物として、記憶されるでしょう。

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