アルエット1号

アルエット1号（Alouette 1）は、宇宙開発競争が繰り広げられていた1962年9月29日、カナダが宇宙に送った最初の人工衛星です。この衛星は、冷戦下の主要宇宙開発国であるアメリカやソビエト連邦以外の国が自らの手で設計し、製造した初めての例としても、歴史に名を刻んでいます。ただし、実際の打ち上げ作業は、協力国であるアメリカ合衆国によって行われました。

この画期的な衛星の開発は、1958年にその端緒が開かれました。当時設立されたばかりのNASA（アメリカ航空宇宙局）が、国際的な宇宙計画への協力をカナダに持ちかけたことが契機となりました。これに応じる形で、カナダ国防研究通信研究所（DRTE）の科学者であったジョン・チャップマン氏とエルディン・ウォレン氏は、宇宙から地球の上層大気、特に電離層を観測できる衛星の設計と製造をNASAに提案します。この革新的なアイデアは受け入れられ、チャップマン氏を中心としたDRTEの科学者チームが組織され、同じ仕様を持つアルエット衛星2機の詳細設計と製造に着手しました。

およそ3年半の開発期間を経て、1962年9月29日、アルエット1号はアメリカの太平洋ミサイル発射場から宇宙へと旅立ちました。軌道に乗ってすぐ、この衛星はその主任務である電離層の観測を開始しました。地球を周回しながら、電離層の状態に関する貴重なデータを収集していったのです。

運用開始から約500日後、アルエット1号は予期せぬ事態に直面します。衛星の回転速度が設計上の見込みを下回り、約0.6rpmまで低下してしまったのです。これにより、意図したスピン安定制御が困難となりました。この回転速度の低下は、衛星の姿勢が、地球の重力によって安定化される方向にゆっくりと変化していった結果であると推測されています。特に、地球側を向いた比較的長いアンテナが、この重力傾度安定化を促進したと考えられています。機体の正確な向き（姿勢）に関する情報は、搭載された磁力計のデータと、熱シールドの上部および下部の温度変化から割り出されていました。

アルエット1号の運用は、当初設計された1年という寿命をはるかに超えて継続されました。最終的にその役割を終えたのは、打ち上げから10年が経過した1972年9月のことでした。この長期にわたるミッション期間中に、アルエット1号は100万枚を超える電離層の画像を地球に送り届け、電離層に関する科学的理解を大きく進めることに貢献しました。

アルエット1号が収めた目覚ましい成果を受けて、カナダとアメリカはさらなる宇宙科学協力を深めることに合意しました。両国は「国際電離層研究衛星（ISIS）」と呼ばれる新たな共同計画を立ち上げ、一連の衛星を打ち上げる協定を結びます。アルエット1号製造時に用意されていたバックアップモデルも、この計画の下で改修を受け、1965年にアルエット2号として宇宙へ送られました。

アルエット1号は、単にカナダ初の衛星というだけでなく、宇宙開発における国際協力の成功例であり、後の世代の衛星開発や電離層研究に大きな影響を与えた、まさにパイオニアと呼ぶべき存在です。その長期にわたる運用と科学的成果は、当時の宇宙技術の水準の高さを証明すると同時に、カナダの宇宙開発史における輝かしい第一歩として記憶されています。

もう一度検索