アルカリホスファターゼ

アルカリホスファターゼ（ALP）とは

アルカリホスファターゼ（Alkaline Phosphatase、略号: ALP）は、特定の条件下でリン酸エステル化合物を分解する働きを持つ酵素です。特にアルカリ性の環境下で活発に作用し、その最適なpHはおよそ10.2とされています。生化学分野ではEC 3.1.3.1として分類されています。

体内での分布と役割

ALPは、人間の体内で非常に広範な臓器や組織に存在しています。特に多く見られるのは、肝臓、腎臓、骨を形成する細胞（骨芽細胞）、胎盤、そして小腸などです。これらの場所では、細胞の表面（細胞膜）に多く存在しています。血液中にも少量存在していますが、これは細胞膜から血液中に放出されたものです。血液中に存在するALPの大部分は、肝臓や骨に由来するものであることが分かっています。

ALPは、体内で様々な生理的な役割を担っていると考えられています。例えば、骨の石灰化や、腸からのリン酸吸収などに関与しているとされています。

血中濃度の上昇が示すこと

血液中のALP濃度が通常よりも高くなる場合があります。これは、主にALPが多く存在する臓器、特に肝臓や骨の細胞が障害を受けたり、活発に再生・修復活動を行ったりしているサインと考えられます。細胞が壊れたり、新しい細胞が作られたりする過程で、ALPの合成が盛んになり、血液中への放出量が増えるためです。

肝臓の病気（特に胆汁の流れが悪くなる病気）や、骨の病気、あるいはこれらの臓器にできた腫瘍などがある場合、ALP値の上昇が見られることがあります。臨床検査では、ASTやALTといった他の肝酵素の値と合わせて確認することで、肝臓や胆道の状態を把握する重要な指標の一つとして利用されています。

臨床検査での測定方法

ALPの血中濃度を測定するにはいくつかの方法があります。主なものとして、Kind-King法、Bessey-Lowry法、GSCC法、SSCC法、JSCC法などがあります。現在、多くの医療機関で使われている自動分析装置での測定には、GSCC法、SSCC法、JSCC法のいずれかが採用されていることが多いです。これは、これらの方法が自動測定に適しているためです。

例えば、Bessey-Lowry法では、特定の物質（p-ニトロフェニルリン酸）をALPが分解する際に生成される物質（p-ニトロフェノール）の量を測ります。この生成物はアルカリを加えると黄色く変化するため、その色の濃さを測ることでALPの活性を定量します。

基準値と変動要因

健常な成人の血中ALP値には基準範囲があり、これは測定方法によって異なります。

Kind-King法：3～10KAU
Bessey-Lowry法：0.8～2.9BLU
GSCC法：90～280U/L
SSCC法：70～260U/L
* JSCC法：100～350U/L

これらの基準値は一般的な目安であり、検査を実施した施設によって多少異なる場合があります。また、ALPは骨の成長に深く関わるため、骨格形成が盛んな乳幼児から思春期にかけては、成人と比べてALP値が高いのが普通です。骨折時にも、骨の修復に伴ってALP値が上昇することが知られています。さらに、妊娠後期から出産後数週間にかけても、胎盤由来のALPが増加するため、基準値の数倍の値を示すことがあります。これらの生理的な変動を理解しておくことが重要です。

異常値の解釈

血中ALP値が基準範囲から外れる場合、体のどこかに問題がある可能性が考えられます。

高値の場合: 最も一般的な原因は、肝臓や胆道の病気です。特に、胆汁の流れが滞るような病気（胆汁鬱滞）では、ASTやALTといった他の肝酵素があまり上昇しない場合でも、ALP値が顕著に上昇することがよくあります。胆汁鬱滞が進むと、黄疸（皮膚や目が黄色くなる症状）を伴うこともあります。また、肝臓や骨にできた癌によってもALP値は上昇することがあります。ALPが高値を示した場合、電気泳動という方法でALPの「アイソザイム」（同じALPでも由来臓器によってわずかに性質が異なるもの）を調べることにより、ALPが高くなっている原因が肝臓によるものか、骨によるものかなど、その由来臓器を推定し、病気の診断に役立てることが行われます。

低値の場合: ALP値が異常に低くなるケースは比較的まれですが、体内の亜鉛が不足している場合に低値を示すことがあります。亜鉛はALPが正常に働くために必要なミネラルだからです。

その他の利用

臨床検査のほかにも、ALPは遺伝子工学の分野でも利用されています。例えば、遺伝子組み換えを行う際に、制限酵素で切断したDNAの末端を処理し、余分な反応を防ぐためにアルカリホスファターゼが使われることがあります。

このように、ALPは体内の様々な場所で重要な働きをしている酵素であり、特に血中濃度は肝臓や骨などの状態を知るための有用な指標として、広く活用されています。

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