アルジュナ

アルジュナ：マハーバーラタを彩る弓術の達人

アルジュナは、インド叙事詩『マハーバーラタ』の中心人物であるパーンダヴァ五兄弟の三男です。母クンティーが神聖なマントラによってインドラ神から授かった息子であり、類まれな弓術の腕前で知られています。神弓ガーンディーヴァを操り、数々の戦場で活躍しました。

パーンダヴァ五兄弟とアルジュナの役割

長兄ユディシュティラが知略と指導力で、次兄ビーマが圧倒的な力と率直さで活躍する中、アルジュナは異なる役割を担います。王位継承争いという枠にとらわれず、神々の試練を克服したり、内面的な葛藤を乗り越えることで、物語の中心的な存在感を示しました。また、アルジュナには双子の異母弟、ナクラとサハデーヴァがおり、敵対するカウラヴァ百王子の一人カルナとは同母兄弟という複雑な関係も持ち合わせていました。

厳しい修行と才能開花

アルジュナは幼少期を森で過ごし、父パーンドゥの死後、ハスティナープラに移り住みます。そこで、バラモンのドローナに師事し、弓術の腕を磨きました。ドローナはパーンダヴァとカウラヴァ両方の王子たちを指導していましたが、アルジュナの卓越した才能に特に目をかけました。

ドローナによる有名な試練では、遠くの木に止まっている鳥を射る課題が課せられました。他の弟子たちが鳥そのものや周囲の環境に目を奪われる中、アルジュナは鳥の目だけに集中し、見事に射抜きました。このエピソードは、アルジュナの鋭い洞察力と集中力を示しています。

また、水の汲み上げの修行では、工夫と技術でドローナの息子アシュヴァッターマンと同等の成果を挙げ、暗闇での食事修行では、暗闇の中でも弓の鍛錬を続け、ドローナを感心させました。軍師クリパもまた、アルジュナの才能を高く評価していました。

ドローナの指導のもと、アルジュナは武芸の腕を極め、御前試合でその実力を披露します。そこで、同じく弓術に長けたカルナと対決する機会を得ますが、身分の違いを理由に一騎打ちは実現しませんでした。

ドローナへの謝礼とドルパダ王

ドローナは弟子たちから師への伝統的謝礼（グル・ダクシナ）として、因縁のあるドルパダ王の捕縛を要求しました。アルジュナは、この困難な任務を成功させ、ドローナの信頼をさらに深めました。

放浪と試練

アルジュナは生涯を通じて、兄弟と共に、あるいは単独で放浪生活を送ります。

一度目の放浪は、ドゥルヨーダナらによる暗殺計画からの脱出でした。彼らは身分を隠し、放浪の末にドラウパディーと結婚します。この際に発生した妻の共有をめぐる出来事や、兄弟間の誓い、そしてその誓い破りによる二度目の放浪など、アルジュナの人生には様々な困難が待ち受けていました。

二度目の放浪では、ウルーピーやチトラーンガダーとの出会い、そしてクリシュナの妹スバドラーとの略奪婚を経て、アビマニユをもうけます。十二年の禁欲生活を経て帰国したアルジュナは、アグニ神の依頼でカーンダヴァの森を焼き払う際に、神弓ガーンディーヴァと矢の尽きない箙を獲得します。さらに、神々との激闘を経て、天界での武芸修行へとつながります。

三度目の放浪は、骰子賭博における敗北によってパーンダヴァ一族が追放されたことに起因します。この期間、アルジュナは厳しい修行を行い、シヴァ神からパーシュパタ、その他様々な神々から武器を授かります。

十三年目の潜伏期間には、マツヤ国で女装し、舞踊教師として過ごします。この隠密生活の期間に、ビーマがキーチャカを殺害したことが、クルクシェートラの戦いの引き金の一つとなります。マツヤ国でのアルジュナの活躍は、その隠された才能と機転の良さを示しています。

クルクシェートラの戦い

十三年間の追放後も、ドゥルヨーダナはパーンダヴァの要求を拒否し、クルクシェートラの戦いが勃発します。この戦いで、アルジュナはクリシュナを御者として迎え、数々の激戦を戦い抜きます。

しかし、戦争開始前、アルジュナは親族同士の殺戮に苦悩し、戦いを放棄しようとする場面があります。この葛藤をきっかけに、クリシュナはアルジュナに「バガヴァッド・ギーター」を説き、アルジュナは再び戦場へと向かいます。

ビーシュマ、ドローナ、そしてカルナといったカウラヴァ軍の主要な指導者を倒す過程では、アルジュナは自身の信念や葛藤と戦いながら、クリシュナからの助言や導きに支えられていました。アビマニユの死はアルジュナに大きな悲しみと復讐の誓いを抱かせ、ジャヤドラタを討つ場面はアルジュナの復讐心に満ちた行動を示しています。

アシュヴァッターマンによる夜襲では、アルジュナは愛する者たちを失う苦しみを味わいます。それでも、アルジュナは戦いを続け、アシュヴァッターマンを追いつめます。ブラフマシラスの呪いによる悲劇的な出来事を経て、アルジュナは戦いの終結を見届けます。

戦後と最期

戦争の後、アルジュナは馬祀祭に従事し、平和な時代を築きます。しかし、ガーンダーリーの呪いとクリシュナの死により、アルジュナは再び試練に直面します。徐々に衰えていく力を自覚し、アルジュナはガーンディーヴァをヴァルナ神に返却し、ヒマラヤで生涯を終えます。

アルジュナとクリシュナ

アルジュナとクリシュナの関係は、物語を通して重要な要素となっています。彼らは前世からの深い絆で結ばれており、「バガヴァッド・ギーター」の問答は、その関係性の深さを象徴しています。クリシュナはアルジュナの精神的な支柱であり、様々な場面でアルジュナを助けます。二人はしばしば「クリシュナウ」と呼ばれ、不可分の一対として描かれています。

アルジュナの異名

アルジュナは「ダナンジャヤ（富を勝ち得た者）」、「ヴィジャヤ（勝利者）」など、多くの異名を持ち、その多様な側面を示しています。

アルジュナは、優れた弓術、揺るぎない信念、そして深い苦悩と葛藤を乗り越える強さを持ち合わせた、『マハーバーラタ』を代表する英雄と言えるでしょう。彼の生涯は、私たちに勇気と希望、そして人間の脆さと強さを同時に教えてくれます。

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