アルチーナ (魔女)

アルチーナ（Alcina）

アルチーナは、16世紀イタリアの詩人ルドヴィーコ・アリオストによって書かれた壮大な叙事詩、『狂えるオルランド』（オルランド・フリオーソ）に登場する、魔法を操る存在です。ヘラクレスの柱の彼方にあるとされる神秘的な島に住む三姉妹の魔女の一人であり、他の姉妹モルガナと共に悪名高い存在とされています。一方、もう一人の姉妹ロジェスティラは、善なる魔女として描かれ、しばしば苦境にある英雄たちを助ける存在です。

アルチーナの最も顕著な特徴は、その圧倒的な美しさです。彼女は魔法の力を用いて、自らを驚くほど魅力的な若い女性に見せています。この偽りの美貌をもって、彼女は多くの騎士や冒険者を自らの島に誘い込み、彼らを虜にしてきました。彼女の魅力は絶大で、たとえ故郷に愛する人がいる騎士ですら、彼女の前にあってはその思いを忘れてしまうほどでした。

しかし、その美しい外見とは裏腹に、アルチーナの心は冷酷で飽きっぽいものです。彼女は自らの宮殿で騎士たちと愛の遊戯に興じますが、やがて相手に飽きると、容赦なく彼らを動物や植物に変えてしまいます。これらの哀れな犠牲者たちは、文字通り彼女の傍で飼い殺される運命を辿りました。『狂えるオルランド』の中で、騎士アストルフォがアルチーナの寵愛を失い、ミルテの木に変えられてしまうエピソードはその典型です。

アルチーナのこのような性質や、訪れる者を魔法で異形に変えてしまう能力は、古代ギリシャのホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』に登場する魔女キルケーとの間に強い類似性を見出すことができます。両者とも、強力な魔法で人々を魅了し、動物に変えて自らの支配下に置くという共通点を持っています。

物語の冒頭で、ルッジェーロはアルチーナの島に漂着し、ロジェスティラの助けを借りてミルテに変えられたアストルフォと出会い、彼を元の姿に戻します。しかし皮肉なことに、その後ルッジェーロ自身がアルチーナの誘惑に陥り、彼女の魔力の虜となってしまいます。アルチーナは魔法によってルッジェーロに若く魅力的な姿を見せていましたが、その真の姿は歯もなく、老いて醜いものでした。幸運にも、善なる魔法使いメリッサ（ロジェスティラの手助けを得ている）がルッジェーロに真実の姿を見せたことにより、彼はアルチーナの魔力から覚め、間一髪で彼女の島から脱出することに成功します。

アルチーナは『狂えるオルランド』の後日譚にあたる『Cinque Canti』（五歌）にも登場します。ここでは、ルッジェーロとアストルフォによって受けた屈辱、そして以前オルランドが姉モルガナに与えた恥辱に対する復讐心を燃やし、裏切り者ガーノと手を組み、シャルルマーニュ大帝とその王国に対して敵対行動を起こします。

『狂えるオルランド』におけるアルチーナ、特にルッジェーロが彼女のもとから脱出する劇的なエピソードは、後世の芸術作品に大きな影響を与えました。この物語は、特にオペラの分野で好んで題材とされ、多くの作曲家によって音楽化されました。その代表的なものとしては、フランチェスカ・カッチーニの『ルッジェーロの救出』（1625年）、アントニオ・ヴィヴァルディの『狂えるオルランド』（1727年）、そしてゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの傑作『アルチーナ』（1735年）などが挙げられます。これらの作品を通じて、アルチーナというキャラクターは時代を超えて観衆を魅了し続けています。

このように、アルチーナは美しい外見の下に冷酷さと魔法の力を隠し持つ、アリオストが創造した最も印象的な悪役の一人であり、文学のみならず音楽の世界においても重要な存在として位置づけられています。

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