アルバン・ベルク弦楽四重奏団

アルバン・ベルク四重奏団

アルバン・ベルク四重奏団（Alban Berg Quartett）は、1970年にオーストリアのウィーンで産声を上げた、20世紀後半を代表する弦楽四重奏団の一つです。その活動期間を通して、ウィーンが培ってきた古典的な音楽の伝統を深く尊重しつつも、同時に20世紀に生み出された斬新な楽曲群を積極的に演奏会に取り入れるという、独自の芸術的な姿勢を貫きました。彼らのこのアプローチは、彼らを他の多くの団体と一線を画す特徴となり、世界中から注目を集める要因となりました。

結成とその理念

楽団の創設は1970年、中心となったのはウィーン国立音楽大学の教授を務め、かつてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でコンサートマスターとしても活躍したギュンター・ピヒラーでした。彼は数名の同僚と共にこの四重奏団を結成します。団体の名称を「アルバン・ベルク四重奏団」としたことには、作曲家アルバン・ベルクの未亡人であるヘレネからの正式な許諾を得ており、彼らが新ウィーン楽派をはじめとする20世紀音楽にいかに敬意を払い、深く関わろうとしていたかが伺えます。翌1971年には、ウィーンの有名なコンサートホール、コンツェルトハウスでのデビューを果たし、その活動を開始しました。

結成初期には、活動拠点をアメリカのシンシナティに移し、そこで約1年間、当時新ウィーン楽派の解釈に優れていたことで知られるラサール弦楽四重奏団に師事するなど、単にウィーンの伝統に安住することなく、常に新しい音楽的視野を広げようとする探求心を持ち合わせていました。彼らは現代音楽への取り組みを活動の重要な柱としましたが、同時に演奏技術や音楽解釈において極めて困難とされる、いわゆる「法外な」難曲には安易に手を出さないという、現実的かつ堅実な方針も有していました。

高い評価と影響力

アルバン・ベルク四重奏団の演奏は、その極めて精緻で均整の取れたアンサンブル能力において、批評家や聴衆から一貫して高い評価を受けました。メンバー間の完璧な連携、音色の統一感、そして楽曲構造への深い理解に基づいた解釈は、多くの聴衆を魅了し、その評判は瞬く間に世界中に広がりました。特に1980年代に入ると、彼らは疑いなく世界のトップクラスの弦楽四重奏団としての地位を確立し、同時代の他の団体にとって規範、すなわち模範となる存在とさえ評されるようになりました。彼らの録音は数々の賞を受賞し、後進の演奏家たちにも大きな影響を与えています。

メンバーの変遷

四重奏団は、活動期間中にいくつかのメンバー変更を経験しましたが、中心的な核は比較的長く維持されました。

第1ヴァイオリン: 創設者であるギュンター・ピヒラーが1970年から解散する2008年まで、一貫してそのポストを務め、楽団の顔であり続けました。
第2ヴァイオリン: 初期メンバーのクラウス・メッツルが1970年から1978年まで務めた後、ゲルハルト・シュルツが交代し、彼もまた1978年から2008年の解散までメンバーでした。
ヴィオラ: 最もメンバー変更が多かったポジションです。創設メンバーのハット・バイエルレが1970年から1981年まで活躍した後、トーマス・カクシュカが加入し、1981年から2005年までヴィオラを担当しました。しかし、カクシュカは2005年7月4日に逝去。その後任として、カクシュカの教え子でもあったイザベル・カリシウスが2005年から2008年の解散まで正式メンバーとして迎えられました。
チェロ: スロヴァキア出身のヴァレンティン・エルベンが、創設された1970年から解散の2008年まで、一度も交代することなく四重奏団の低音部を支え続けました。

これらのメンバーは、それぞれの時期において、アルバン・ベルク四重奏団が追求した独自のサウンドと音楽性を形作る上で重要な役割を果たしました。

活動の終焉

長きにわたり世界の音楽界で圧倒的な存在感を放ち続けたアルバン・ベルク四重奏団でしたが、2008年7月をもって、その約38年にわたる輝かしい活動に終止符を打ち、解散しました。彼らが遺した膨大な録音は、今もなお多くの音楽愛好家によって聴き継がれており、その芸術的な遺産は色褪せることなく語り継がれています。ウィーンの伝統と現代への挑戦という二つの要素を見事に融合させた彼らの功績は、弦楽四重奏の歴史において特筆されるべきものと言えるでしょう。

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