アルバ・パテラ

アルバ山（旧称：アルバ・パテラ）

火星の表面には数多くの火山が存在しますが、中でもタルシス地域に位置するアルバ山は、その規模において太陽系でも類を見ない巨大な火山構造です。かつてはアルバ・パテラという名称で広く知られていましたが、2007年以降、国際天文学連合（IAU）によって正式名称がアルバ山（Alba Mons）に改められました。旧称のアルバ・パテラは、現在では山頂部の特定のクレーター群を指す名称となっています。この火山構造は、1972年にNASAの火星探査機マリナー9号によって初めて詳細な観測が行われ、その全貌が明らかになりました。

火山としての特徴と規模

アルバ山は、地球上のハワイの火山群やアイスランドの火山に似た、なだらかな斜面を持つ典型的な楯状火山です。しかし、その規模は地球の火山とは比較にならないほど巨大です。最も顕著な特徴は、その圧倒的な裾野の広がりです。基部の直径は実に約1,600kmにも及び、これは火星で最も高い火山であるオリンポス山の直径（約600km）の3倍以上に相当します。太陽系全体を見渡しても、これほど広大な面積を覆う火山構造は他に存在しません。

一方で、その巨大な広がりとは対照的に、標高は比較的低く、約6,800m程度です。これはオリンポス山の約22,000mという高さのおよそ4分の1に過ぎません。この広大で平坦な形状は、非常に粘性の低い溶岩が長期間にわたって繰り返し噴出し、広範囲に流れ広がった結果形成されたと考えられています。火星の低い重力と大規模な噴火活動が組み合わさることで、このような独特な形態を持つ巨大火山が誕生したのでしょう。

山頂のカルデラ

アルバ山の山頂部には、火口が陥没してできたカルデラが複数存在します。これは単一のカルデラではなく、複数のカルデラが組み合わさった複合カルデラ構造を形成しています。主要なカルデラは二つあり、一つは長径およそ170km、短径およそ100kmという非常に大きな楕円形をしています。これに隣接して、より小規模な長径およそ65km、短径およそ40kmのカルデラが存在します。これらのカルデラの深さはおよそ1,200mに達し、過去の激しい噴火活動とその後の山頂部の陥没を示唆しています。

名称の由来と変遷

「アルバ・パテラ」という名称には、その特徴にちなんだ由来があります。「アルバ（Alba）」はラテン語で「白」を意味します。これは、かつて地球から望遠鏡で火星を観測した際に、この火山の上にしばしば白い雲が見られたことに由来すると考えられています。「パテラ（Patera）」もラテン語で、「皿」や「浅いボウル」を意味する言葉です。これは、山頂に存在する特徴的な二つのカルデラの形状が、浅い皿のように見えたことから名付けられました。

しかし、火星の地形名称に関する国際的な取り決めを司るIAUは、2007年9月に名称の定義を整理しました。この改定により、火山構造全体を指す名称は「アルバ山（Alba Mons）」となり、旧称であった「アルバ・パテラ」は、山頂のクレーター群というより限定的な地形を指す名称として再定義されました。したがって、現在この巨大な楯状火山全体を指す場合は、正式名称であるアルバ山を用いるのが一般的です。

その他の特徴

アルバ山は火星のタルシス地域でも北寄りに位置しており、広大な溶岩平野に囲まれています。また、火星の裏側、すなわちアルバ山から見て地球でいう対蹠地にあたる場所には、巨大なヘラス平原が広がっています。この平原は火星で最も深く、広く、低緯度にある盆地の一つであり、アルバ山との位置関係は火星全体の地形形成史を考える上で興味深い点とされています。

アルバ山は、その比類なき裾野の広がりと、火星の巨大な火山活動の歴史を示す証拠として、惑星科学において重要な研究対象であり続けています。

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