アルバート・デッカー

アルバート・デッカー：ハリウッドの異端児、その栄光と謎の死

アルバート・デッカー(1905年-1968年)は、アメリカ合衆国の俳優です。端正な顔立ちと確かな演技力で、多くの映画やテレビドラマに脇役として出演し、人々を魅了しました。名脇役として広く知られ、ハリウッドの殿堂であるハリウッド・ウォーク・オブ・フェームにもその名を刻んでいます。しかし、彼の生涯は華やかな表舞台だけでなく、政治活動や、いまだ謎のベールに包まれた最期など、多くのドラマを含んでいます。

俳優への道：舞台からハリウッドへ

ニューヨーク州ブルックリンのオランダ系アメリカ人の家庭に生まれたデッカーは、当初は精神分析医か心理学者を目指し、ボウディン大学に進学しました。しかし、学生劇への出演がきっかけで俳優の道へ進みます。大学卒業後の1927年には、オハイオ州シンシナティで舞台俳優としてプロデビューを果たし、その才能を開花させました。数ヶ月後にはブロードウェイの舞台にも立ち、着実にキャリアを積み重ねていきました。
1937年、念願のハリウッドデビューを果たします。その後は映画を中心に活躍する一方、時折舞台にも出演するなど、多様な活動を展開しました。彼の演技は高く評価され、多くの作品で重要な役割を果たしました。

政治への関与とマッカーシズム批判

デッカーは俳優としての活動のみならず、政治にも強い関心を持ち、1944年にはカリフォルニア州議会下院議員に民主党員として当選しました。2年間の議員活動を経て、1946年に退任します。
しかし、彼の政治への関与はそれだけでは終わりません。1950年代、アメリカを席巻したマッカーシズムの嵐の中、デッカーは勇気ある行動に出ます。当時の権力者であったジョセフ・マッカーシー上院議員を公然と批判したのです。この批判は、彼をブラックリスト入りさせ、俳優としての活動を制限することに繋がりました。特にブロードウェイでの活動は困難を極めましたが、デッカーは舞台を中心に活動の拠点を移し、テレビ出演や大学の講演活動などを通して、精力的に活動を続けました。

私生活と悲劇

デッカーは1929年に女優のエスター・グイリーニと結婚し、2人の息子と1人の娘をもうけました。しかし、1964年に離婚しています。彼の私生活には、1957年に16歳で猟銃自殺した息子ジョン（事故死として処理）という大きな悲劇もありました。

謎に包まれた死：窒息プレイか？

1968年5月5日、ハリウッドの自宅で死亡しているのが発見されました。恋人のジェラルディン・サンダースが、2日間電話に出ないことを不審に思い、発見に至ったとのことです。自宅には侵入された形跡はありませんでしたが、現金やカメラなどがなくなっていました。
発見されたデッカーの死体は、全裸でバスタブの中にひざまずいた状態でした。首にはシャワーカーテンのつり棒にかけられた縄が締められており、手錠をかけられ、目隠しと猿ぐつわをされていました。さらに、性的な言葉が口紅で体に書かれていたとのことです。検視官は、「窒息プレイ」による事故死と断定しましたが、その真相は、いまだ不明な点が多く、多くの謎を残したままです。

デッカーの足跡

アルバート・デッカーは、俳優として、政治家として、時代の波に翻弄されながらも、自身の信念を貫き通そうとした人物でした。彼の活躍は、数々の映画やテレビドラマ、そして政治舞台に残されています。彼の生涯は、ハリウッド黄金期の華やかさと、マッカーシズムという暗い影、そして謎めいた最期という、複雑で魅力的な物語を織りなしています。彼の名は、これからも人々の記憶に刻まれ続けることでしょう。

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