『アルファヴィル』(
1965年)は、
ジャン=リュック・ゴダール監督による
フランス・
イタリア合作のSF
映画です。ゴダール監督自身が「実験的、芸術的、冒険的、半SF」と評した本作は、作家ピーター・チェイニーが生み出した探偵レミー・コーションを主人公に、
ディストピア的な未来都市アルファヴィルを舞台に展開します。
物語は、シークレット・エージェントであるレミー・コーションが、アルファヴィルに潜入するところから始まります。彼はジャーナリストを装い、失踪したエージェントの捜索、アルファヴィル建設者のフォン・ブラウン教授の逮捕または抹殺、そしてアルファヴィルを支配する人工知能アルファ60の破壊という三つの目的を達成しようとします。アルファヴィルは、感情や思想の自由が完全に抑圧された、冷酷で機械的な都市です。
本作の大きな特徴の一つは、その撮影方法にあります。ゴダール監督は、セットやミニチュアを一切使用せず、現実のパリ市街をそのまま撮影することにより、アルファヴィルの異様な雰囲気を表現しました。
1965年1月4日から2月20日にかけて、パリの街並みで撮影が行われ、その独特な映像は、現実とフィクションの境界線を曖昧にし、観る者に強い印象を与えます。
キャストには、
エディ・コンスタンティーヌ(レミー・コーション役)、
アンナ・カリーナ(ナターシャ役)、そしてハワード・ヴェルノン(フォン・ブラウン教授役)など、ゴダール監督作品にゆかりのある俳優たちが名を連ねています。彼らの演技もまた、
映画全体の独特な雰囲気を作り出す上で重要な役割を果たしています。
ゴダール監督は、この作品で社会への鋭い批判を織り込みました。アルファヴィルという都市は、高度な技術文明が人間の自由と感情を奪ってしまった未来社会のメタファーとして解釈できます。合理主義と管理主義が支配する社会における個人の疎外や、情報操作の危険性を、独特の映像表現と物語を通して提示しているのです。
『アルファヴィル』は、公開当時から高い評価を受け、
1965年の
ベルリン国際[[映画祭]]では最高賞である
金熊賞を受賞しました。さらに、同年にはトリエステSF
映画祭でもグランプリを受賞しており、その高い芸術性と社会的な意義が国際的に認められたことを示しています。日本では
1966年10月、
フランス映画祭で上映された後、
1970年5月に一般公開されました。
レビュー・アグリゲーターである
Rotten Tomatoesでは、47件のレビューで91%の高い支持率を獲得しており、平均点は8.40/10と、現代においても高い評価を得ています。この評価は、ゴダール監督の革新的な映像表現と、社会への深い洞察、そして時代を超えた普遍的なテーマが評価されていることを示しています。
『アルファヴィル』は、単なるSF
映画にとどまらず、人間の存在、自由、そしてテクノロジーとの関係性について深く考えさせる、傑作と言えるでしょう。ゴダール監督の独特な視線と表現力を通して、観る者それぞれが様々な解釈をできる余地を残しているのも、この
映画の魅力の一つです。時代を超えて、観る者に強い印象と深い思考を促す、まさに実験的で芸術的なSF
映画と言えます。