アルファ・ベータ・ガンマ理論

アルファ・ベータ・ガンマ理論とは

アルファ・ベータ・ガンマ理論（Alpher-Bethe-Gamow paper）は、宇宙初期の元素合成に関する重要な理論です。この理論は、ラルフ・アルファーが博士課程の学生であった頃、指導教官のジョージ・ガモフと共に提唱しました。1948年に発表されたこの理論は、ビッグバン直後の宇宙で、水素、ヘリウム、そしてより重い元素が、観測される存在比率で生成されたと説明します。

理論の提唱と内容

アルファーの博士論文が基となったこの理論では、初期宇宙の極めて高温高密度の状態において、核反応によって軽い元素が形成されたと考えました。当初の理論では、重元素の形成に必要な過程が十分に考慮されていませんでしたが、後に改良が加えられ、ビッグバン原子核合成は、すべての始原元素の観測データと矛盾しないようになりました。

この理論の正式なタイトルは「The Origin of Chemical Elements」で、フィジカル・レビュー誌に掲載されました。この論文は、宇宙の元素組成を説明する上で非常に重要な役割を果たしました。

ベーテの名前が加えられた経緯

ジョージ・ガモフは、論文の著者リストに、アルファー、ハンス・ベーテ、そして自分自身の名前が、ギリシャ文字のアルファ、ベータ、ガンマの順になるように並べたいと考えました。そこで、ガモフは友人であり著名な研究者であったハンス・ベーテを論文の著者として加えることにしました。しかし、この時ベーテは、この研究に直接的な貢献はしていませんでした。

ガモフは、自身の著書「The Creation of the Universe」の中で、この論文に対するベーテの貢献について言及しています。しかし、実際にはベーテはこの論文に直接関与しておらず、これはガモフのユーモアによるものでした。

アルファーの困惑

当時大学院生であったアルファーは、論文にベーテの名前が含まれたことに困惑しました。彼は、著名な学者の名前が加わることで、自身の研究への貢献が過小評価されることを懸念しました。アルファーは、この重要な発見に対する適切な評価を得られないのではないかと感じ、ガモフの行為に1999年まで恨みを抱いていたといいます。

林忠四郎による修正

アルファーとガモフによる論文では、ヘリウムだけでなく、より重い元素もビッグバン時に生成されたとされていましたが、1950年に日本の物理学者である林忠四郎が、ビッグバンから最初の2秒間ではヘリウムより重い元素が形成されないことを指摘しました。

林の指摘により、初期宇宙における元素合成の理解は大きく進展しました。この修正を受けて、理論は「アルファ・ベータ・ガンマ・ハヤシ理論」と呼ばれることもあります。

理論の意義

アルファ・ベータ・ガンマ理論は、初期宇宙における元素合成のメカニズムを説明する上で重要な役割を果たしました。この理論は、ビッグバン理論の有力な証拠の一つとなり、現代宇宙論の基礎を築く上で欠かせないものとなりました。しかし、この理論はあくまでも初期宇宙での元素生成を説明するものであり、星の内部での元素合成のメカニズムについては別の理論が必要とされました。

その後の研究

アルファ・ベータ・ガンマ理論の発表後、様々な研究によって理論が発展しました。特に、恒星内部での元素合成（B2FH理論）や、宇宙初期におけるより重い元素の生成過程の研究が進みました。これらの研究は、宇宙における元素組成の多様性を理解するために不可欠なものです。

アルファ・ベータ・ガンマ理論は、宇宙論の歴史における重要なマイルストーンであり、その後の研究に大きな影響を与えました。この理論を基盤として、私たちは宇宙の進化と元素の起源についての理解を深め続けています。

参考資料

Alpher, R. A. and R. Herman (2001). Genesis of the Big Bang (1st ed.). Oxford University Press
Bethe, H. A (1939). “Energy production in stars”. Physical Review 55 (5): 434.
Burbidge, E. M., G. R. Burbidge, W. A. Fowler, and F. Hoyle (1957). “Synthesis of the elements in stars”. Reviews of Modern Physics 29 (2): 547.
Cameron, A. G. W. (1957), “Stellar Evolution, Nuclear Astrophysics and Nucleogenesis”, Chalk River Laboratories Report CRL-41
Clayton, D. D. (2003). Handbook of Isotopes in the Cosmos: Hydrogen to Gallium. Cambridge University Press
Gamow, G. (2004) [1952]. The Creation of The Universe. Reprint: Dover Publications, Original: Viking Press
* デービッド・アボット 編『世界科学者事典』 3巻、小尾信彌（監訳）、原書房（原著1987年3月15日）, 134-135頁。

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