ジョージ・ガモフ

ジョージ・ガモフ（George Gamow, 1904年3月4日 - 1968年8月19日）は、ロシア帝国（現在のウクライナ）のオデッサに生まれ、後にアメリカで活躍した理論物理学者です。彼はアレクサンドル・フリードマンの弟子であり、宇宙論、原子核物理学、さらには生物学の分野にも足跡を残しました。

生涯と業績

ガモフは1928年、放射性原子核のアルファ崩壊に量子論を初めて適用しました。彼は、アルファ粒子が原子核の周りのポテンシャル障壁をトンネル効果によって透過するという理論を提唱し、実験的に知られていたガイガー・ヌッタルの法則を説明しました。1929年にレニングラード大学で博士号を取得した後、ドイツのゲッティンゲン、イギリスのケンブリッジ、デンマークのコペンハーゲンといった欧州各地の研究機関を渡り歩き、1931年にレニングラードに戻りました。

1931年、ガモフはオックスフォード大学から原子核物理学の教科書を出版しました。1933年にロシアを離れ、アメリカに移住し、1934年にはジョージ・ワシントン大学で教授に就任し、1956年まで教鞭を執りました。

1948年、ガモフはラルフ・アルファー、ハンス・ベーテとの共著論文で、宇宙初期の核反応に関する理論、いわゆる「アルファ・ベータ・ガンマ理論（α-β-γ理論）」を発表しました。この理論は、宇宙の元素合成を説明しようとしたもので、ベーテは実際には研究に関与していませんでしたが、ガモフが語呂合わせのために共著者に加えたというエピソードがあります。その後、この理論の一部は林忠四郎によって修正され、「α-β-γ-林の理論」と呼ばれることもあります。

同年、ガモフはα-β-γ理論を基に「火の玉宇宙」という概念を提唱し、ジョルジュ・ルメートルの提唱した膨張宇宙論を支持しました。また、宇宙背景放射の存在を予言し、その温度を5Kと推定しましたが、当時の技術では観測が難しく、実際に検出されるまでには時間がかかりました。

1965年、約3Kの宇宙背景放射が偶然発見されたことで、ビッグバン理論が優位になり、現在では標準的な宇宙理論として広く受け入れられています。

1950年代には、ガモフは生物学、特に遺伝情報に関する研究に興味を抱きました。ジェームズ・ワトソンに働きかけ、フランシス・クリック、リチャード・ファインマンらと1954年に社交クラブ「RNAタイクラブ」を設立し、研究者間の交流と創造的なアイデアの創出を促進しました。また、DNAの遺伝情報において、塩基配列の3つの組み合わせがタンパク質を構成するアミノ酸の情報を担うという「コドン」の概念を提唱し、遺伝暗号の解読に貢献しました。

1956年にはユネスコから科学普及の功績に対してカリンガ賞を受賞し、1965年にはケンブリッジのチャーチル大学の海外フェローに選出されました。

ガモフは、一般向けの科学啓蒙書を数多く執筆しており、『不思議の国のトムキンス』シリーズは、難解な物理理論をわかりやすく解説したことで有名です。ガモフは1968年に亡くなるまで、コロラド大学で教鞭を執りながら著作活動を続け、同大学の物理学科の塔には彼の名前が付けられています。

また、1971年の日本の特撮テレビ番組『宇宙猿人ゴリ（スペクトルマン）』の主人公ヒーローである「蒲生譲二（がもう・じょうじ）」は、ガモフの名前をもじって名付けられたものです。

主な著作

不思議の国のトムキンス
太陽の誕生と死
地球の伝記
原子の国のトムキンス
原子力の話
宇宙の創造
生命の国のトムキンス
月
物理の伝記
続・太陽の誕生と死
トムキンス最後の冒険
わが世界線 = ガモフ自伝
G・ガモフコレクション
トムキンスの冒険
太陽と月と地球と
1、2、3…無限大
物理学の探検
不思議宇宙のトムキンス（ジョージ・ガモフ　ラッセル・スタナード著）
数は魔術師
現代物理科学の世界（上・下）

参考文献

二間瀬敏史「天文学の20世紀 第10回 ジョージ・ガモフ」『星ナビ』、KADOKAWA、2015年3月、46-51頁。
二間瀬敏史「天文学の20世紀 第17回 林忠四郎」『星ナビ』、KADOKAWA、2015年10月、48-52頁。
佐々木ケン漫画『漫画人物科学の歴史11 ガモフ/ウェゲナー : 地球と宇宙』インタラクティブ編 ほるぷ出版 1991年

関連項目

宇宙物理学者

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