アルフォンス・アッセルベルフ

アルフォンス・アッセルベルフ（Alphonse Asselbergs）は、1839年6月19日に生まれ、1916年4月10日に没したベルギーの画家です。特に風景画の分野で知られ、ブリュッセル近郊のテルビュレンに集まり活動した芸術家集団、いわゆる「テルビュレン派」の重要な一員として名を残しています。

裕福な紙商を父に持つ家庭に生まれたアッセルベルフは、ブリュッセルで初期の教育を受けました。20歳になる頃からは家業である父の会社で働くことになりますが、芸術への関心は失いませんでした。転機となったのは、風景画家エドゥアール・ユベルティ（1818-1880）との出会いです。1863年からユベルティに師事し、絵画の基礎と風景表現の手法を学び始めました。

さらに画業への道を深めるきっかけが訪れます。画家仲間であるテオドール・バロン（1840-1899）やルイ・アルタン・ド・サンマルタン（1837-1890）からの強い後押しを受け、アッセルベルフは1866年に家業から完全に離れ、画家として生きることを決意します。この決断は、彼の芸術家としてのキャリアを本格的にスタートさせる上で極めて重要でした。

1867年頃からは、ブリュッセルに近いフラームス＝ブラバント州のテルビュレンに活動の拠点を移し、イポリット・ブーランジェ（1837-1874）やテオドール・フルモワ（1814-1871）といった、後に「テルビュレン派」として知られることになる画家たちと共に精力的に制作を行います。テルビュレン派は、フォンテーヌブローの森を描いたフランスのバルビゾン派の影響を受けつつ、ベルギーの豊かな自然、特にブラバント地方の森や水辺の風景を好んで描きました。アッセルベルフもまた、この地で自然と向き合い、写実的かつ情感豊かな風景画を生み出していきました。

アッセルベルフはまた、ベルギーの美術界の発展にも貢献しました。1868年には、革新的な芸術家の集まりであった「自由美術協会」（Société libre des beaux-arts）の設立メンバーの一人として名を連ねています。この協会は、当時の伝統的なアカデミズムに囚われず、自由な表現を追求する場となりました。

彼の探求心は国内に留まらず、海外での研鑽も積んでいます。1873年からは画家仲間のアルトゥール・ブーヴィエ（1837-1921）と共に、当時フランス領であったアルジェに18ヶ月間滞在し、異国の光や風景を描きました。その後も2年間、フランスのバルビゾンに滞在し、ヨーゼフ・コーゼマンス（1828-1904）と共に制作活動を行い、写実主義の巨匠テオドール・ルソー（1812-1867）の作品などを深く研究しました。これらの海外経験は、彼の風景表現にさらなる深みと広がりを与えたと考えられます。

アッセルベルフの芸術家としての功績は、ベルギー政府によっても高く評価されました。1881年にはレオポルド勲章のシュヴァリエ（騎士）章を、そして1896年にはオフィシエ（将校）章を受章しています。これらの叙勲は、彼の作品がベルギー美術史において確固たる地位を占めることを示しています。

晩年も制作を続けたアッセルベルフは、1916年4月10日、イクルにて76歳でその生涯を終えました。自然を愛し、その美しさを誠実に描き続けた彼の作品は、ベルギー風景画の歴史において重要な足跡を残しています。テルビュレン派の中心人物として、また写実主義の影響を受けた風景画家として、アルフォンス・アッセルベルフの名前は今なお記憶されています。

もう一度検索