アルフレッド・ジェイコブ・ミラー

アルフレッド・ジェイコブ・ミラー（Alfred Jacob Miller、1810年1月2日 - 1874年6月26日）は、19世紀アメリカを代表する画家の一人です。特に、スコットランド出身の貴族で冒険家ウィリアム・ドラモンド・スチュワートに同行した北米西部の探検旅行で描いた、毛皮を求めて働く猟師やこの地の先住民であるネイティブアメリカンの生活、そして壮大な風景を主題とした絵画で知られています。

ミラーはボルチモアで生を受けました。彼の父親は商人として成功し、居酒屋や農園も所有する裕福な家庭環境でした。ボルチモアの私立学校で基礎教育を受けましたが、専門的な美術教育は公式には受けていません。しかし、フィラデルフィアで活躍していた肖像画家トマス・サリーに師事した可能性が指摘されています。

1832年、ミラーは家族や地元の支援者からの資金援助を得て、本格的に美術を学ぶためにヨーロッパへ渡りました。パリでは、正規の学生ではありませんでしたが、エコール・デ・ボザール（パリ国立高等美術学校）の人物画クラスに参加し、ルーブル美術館では古典作品の模写に励むなど、集中的に研鑽を積みました。その後イタリア各地を旅し、ボローニャ、フィレンツェ、ヴェネツィアなどを訪れました。特にローマに滞在中は、著名な彫刻家ベルテル・トルバルセンやフランスの画家オラース・ヴェルネといった当時の芸術家たちと交流する機会に恵まれました。

1834年にボルチモアへ帰国したミラーは、自身のスタジオを開設し、肖像画や古典絵画の複製画を描くことで生計を立てようと試みました。しかし、ボルチモアでは絵画の依頼が少なく、安定した仕事を得ることが困難でした。この状況を打開するため、1837年に活気あふれるニューオーリンズに移住し、肖像画家として新たな活動を始めました。

ニューオーリンズでの活動中、ミラーの運命を変える出会いがありました。それが、1832年からアメリカ西部を探検していたスコットランドの貴族で冒険家、ウィリアム・ドラモンド・スチュワートとの出会いです。スチュワートは自身の探検や狩猟の旅を記録する画家を探しており、ミラーに白羽の矢を立てました。1837年、ミラーはスチュワートの依頼を受け、ロッキー山脈を目指す探検隊に同行することになります。この旅の目的は、スチュワートの狩猟旅行の様子を記録することでしたが、ミラーはそれにとどまらず、広大な西部の風景、そこで生活するネイティブアメリカンの文化、そして毛皮貿易に従事するタフな猟師たちの姿を精力的にスケッチしました。同年、彼らはスチュワートや毛皮会社の関係者と共にワイオミング州まで旅し、グリーン川を遡上する遠征にも参加しました。

長い探検旅行からニューオーリンズに戻ったミラーは、旅の間に水彩で描き溜めた膨大なスケッチを元に、アトリエで本格的な油絵作品の制作に取り組みました。これらの作品は、当時の東部の人々にとって未知の世界であったアメリカ西部の様子を初めて具体的に伝える貴重な記録となりました。1838年にはニューオーリンズでこれらの作品を含む展覧会を開催し、注目を集めました。

1840年、ミラーは自身の主要な作品群と共にスコットランドへ渡りました。これらの作品は、探検のパトロンであったスチュワートの居城であるマースリー城（Murthly Castle）に収蔵されることとなりました。ミラーはスコットランドやロンドンでしばらく過ごした後、1842年にアメリカへ帰国し、再びボルチモアに居を定めて画家としての活動を続けました。

晩年もボルチモアで過ごし、1874年に同地でその生涯を閉じました。アルフレッド・ジェイコブ・ミラーは、アメリカ西部の初期の姿を芸術の力で記録した先駆者として、その後のウェスタンアートに大きな影響を与えました。彼の作品は、単なる風景画や人物画にとどまらず、当時のフロンティアにおける多様な文化や生活、そして失われつつあった自然の姿を捉えた歴史的に価値の高い資料としても評価されています。

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