アルフレッド・ビネー

アルフレッド・ビネー（Alfred Binet、1857年7月8日 - 1911年10月18日）は、近代心理学の発展に大きな足跡を残したフランスの心理学者です。

特に、知能を測定するための客観的な手法である「知能検査」の創始者として、その名は広く知られています。

生い立ちと学究の道のり

ビネーは医者の家系に生まれ、父も医師でしたが、幼い頃に父から解剖用の遺体に触れるよう強いられた経験が深い心の傷となり、自身が医師となる道を断念する一因になったと言われています。当初はパリのソルボンヌ大学で法学を学びますが、やがて著名な神経学者ジャン＝マルタン・シャルコーの影響を受け、医学に関心を移し、サルペトリエール病院に勤務します。しかし、そこでシャルコーとその反対派であるナンシー学派の学派間の対立に巻き込まれ、病院を去ることになります。

1880年代頃からは、心理学の研究に本格的に取り組むことを決意します。1892年には、ソルボンヌ大学の生理的心理学実験室にて、アンリ・エティエンヌ・ボニーのもとで研究職に就きました。ここでビネーは、動物心理学、異常心理学、思考心理学など、多岐にわたる分野の研究を進めます。1895年には、ボニーらと共に学術誌『心理学年報（L'Année psychologique）』を創刊・発行し、1897年からはその編集責任者も務めました。同年、ボニーの退職を受けて同実験室の室長職を引き継ぎ、生涯にわたりこの場所で精力的な研究活動を続けました。

知能検査の開発と共同研究者シモン

ビネーの最も画期的な功績は、知能の測定に関する研究です。1905年、フランス文部省からの依頼を受け、学校での学習において特別な支援が必要な子ども、すなわち知的発達に遅れのある子どもたちを識別する目的で、共同研究者テオドール・シモンと共に、後世に大きな影響を与えることになる知能測定法「ビネー・シモン知能尺度」を開発・発表しました。シモンとの出会いは1899年で、知的障害児施設でインターンとして働いていた彼の才能を見出したビネーが、共に施設の子どもたちの詳細な観察や各種検査を実施したことが、この共同研究の始まりでした。ビネー・シモン知能尺度は、記憶力、注意力、推論能力など、知能を構成する様々な精神機能を測る課題で構成されており、個人の知能レベルを「精神年齢」という概念を用いて表現する手法を導入した点で、画期的な試みでした。この尺度は1908年には改訂版が開発されています。

その他の業績と晩年

ビネーは知能研究以外にも、幅広い分野で貢献しています。例えば、特定の無生物（下着や靴など）に対する性的魅力に関し、「フェティシズム」という言葉を心理学用語として初めて積極的に提唱・使用した人物としても知られており、この用語は後にフロイトにも引き継がれました。

知能検査の開発はビネーに国際的な名声をもたらしましたが、彼は自身の開発した尺度がまだ発展途上であると考えており、完成を待たずに1911年に54歳で死去しました。死を目前にした数週間前には、「あと5年生きることができれば」と語ったという逸話が残されています。彼の死因は脳卒中とも推測されていますが、異説も存在するようです。ビネーが開発した知能検査は、彼の死後も世界中に広まり、様々な改訂や発展を経て、今日の心理学や教育、臨床の現場で広く用いられています。日本にも上野陽一によっていち早く紹介され、田中ビネー知能検査などの形で引き継がれています。ビネーの業績は、心理学が個人の精神機能を科学的に測定する分野へと発展する上で、極めて重要な基礎を築きました。

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