アルベルト・ブッリ

アルベルト・ブッリ：戦後イタリア美術を彩る異端の画家

アルベルト・ブッリ（1915年-1995年）は、20世紀イタリアを代表する画家、彫刻家です。ルーチョ・フォンタナと並ぶアンフォルメル（非定型美術）の巨匠として、第二次世界大戦後のイタリア前衛美術を牽引しました。日本ではフォンタナほどの知名度はありませんが、イタリア美術史における彼の重要性、後進への影響は計り知れません。

ブッリは伝統的な絵画技法を拒否し、粗い麻袋や透明プラスチックといった異素材をキャンバスとして用いました。バーナーでプラスチックを焼き焦がしたり、穴を開けたりするなど、大胆な手法で抽象絵画を追求しました。彼の作品は絵画の「物質性」に着目しており、絵画表現の可能性を大きく広げました。この革新的なアプローチは、1960年代に台頭したアルテ・ポーヴェラ（貧しい芸術）のアーティストたちに多大な影響を与え、その後の美術表現に大きな足跡を残しました。

波乱に満ちた生涯と芸術への目覚め

1915年、イタリアのウンブリア州で生まれたブッリは、薬剤師としてキャリアをスタートさせます。しかし、第二次世界大戦の勃発により、彼は従軍。チュニジアで捕虜となり、その後アメリカ合衆国の収容所に収監される経験をしました。この収容所での生活が、彼の芸術家としての道を切り開く転機となります。1946年、イタリアに戻った彼は薬剤師の職を辞め、ローマに移住して画家としての道を歩み始めました。以降、彼は一貫して抽象画を追求し、具象表現は全く試みませんでした。

個性的な素材と手法

ブッリの初期の作品は、ぼろ布をコラージュした立体的な構成が特徴です。その後、麻袋を使った「ずた袋」シリーズが注目を集めます。赤や黒に染められた麻布の上に粗いインド麻の袋を貼り付けたこれらの作品は、戦後の悲観的な時代精神と結びつけて解釈されることも多かったですが、アルテ・ポーヴェラの先駆けとなる、素材の持つ力強さを表現しています。

1950年代後半からは、木材やプラスチックを燃やす「燃焼」シリーズに取り組み始めました。これら実験的な手法は、絵画の概念をさらに拡張し、彼の芸術的探求を深めていきます。

世界的評価とその後

ブッリはヴェネツィア・ビエンナーレへの参加やアメリカでの個展開催などを通じて、国際的な評価を得ました。彼の作品は現在も世界中の美術館に収蔵され、高い評価を受けています。1995年、南フランスで亡くなるまで、彼は精力的に創作活動を続け、20世紀イタリア美術に大きな足跡を残しました。

代表作

『Composition』（1953年、グッゲンハイム美術館）
『Grande Rosso P.18』（1964年、国立近代美術館（イタリア、ローマ））

美術史における位置づけ

ブッリは、ルーチョ・フォンタナやアフロ・バサデッラらと共に、アンフォルメル運動の中心人物として、戦後イタリア美術を代表するアーティストの一人です。彼の革新的な素材と手法は、アルテ・ポーヴェラに大きな影響を与え、現代美術の発展に貢献しました。その独特の表現方法は、絵画の物質性と精神性の両面に迫り、観る者に深い感銘を与え続けます。彼の作品は、単なる絵画という枠を超え、時代の精神と人間の存在を問いかける、力強いメッセージを私たちに伝えています。

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