アルペトラギウス

アルペトラギウスの業績と影響

アルペトラギウス（Alpetragius）、またはビトルージー（Biṭrūjī）として知られるこの天文学者は、中世のイスラム社会において重要な役割を果たしました。彼は生年は不明ですが、1204年にその生涯を閉じ、現在のモロッコで生まれました。アルペトラギウスはセビリャやアンダルシア地域に住み、そこで学問に励んだことで知られています。

彼の教育については、著名な哲学者であり天文学者であるイブン・トファイルの弟子となったことが挙げられます。彼は同時代の学者イブン＝ルシュド（アヴェロエス）とともに、イスラム世界での知識の発展に寄与しました。その中でも特筆すべきは、彼が著した『キタブ・アル・ハイア』（Kitab-al-Hay’ah）であり、これはプトレマイオスの宇宙体系に対する疑問から生まれた理論です。

彼の理論は、惑星の運動を理解するための新しいアプローチを提供しました。アルペトラギウスは、地球を中心とした透明な天球に天体が配置され、その天球が一定の速度で回転するという「同心球体説」の一形態を提唱しました。彼の考え方は、アリストテレスやエウドクソスの理論に似ている部分がある一方で、いくつかの重要な点でそれらとは異なります。特に、彼の理論では天球の回転軸の動きがザルカーリーの恒星理論に近いことが指摘されています。

アルペトラギウスの業績は、彼が生存していた時代以降、さまざまなかたちで評価を受け続けました。彼の著作『キタブ・アル・ハイア』は、後にMoses Ben Tibbonによってヘブライ語に翻訳され、その後、マイケル・スコットを通じてラテン語にも訳されました。このことにより、彼の理論は13世紀の間に広がり、多くの学者がその影響を受けました。特に、ロジャー・ベーコンはアルペトラギウスの考えに好意的でしたが、彼の理論は観測事実との不整合から大部分の支持を得ることができませんでした。

それでも、アルペトラギウスの同心球体説への興味は消えることはなく、後の学者たちによって再評価されました。例えば、レギオモンタヌスは彼の理論を批判しつつも、その影響を受けたことが知られています。また、コペルニクスの著作『天球の回転』でも、アルペトラギウスの惑星配列が引用されており、特に1529年にはCalo Calonymus ben Davidによって新たにラテン語訳され、その2年後には『Sphaerae tractatus』に組み込まれて出版されるなど、彼の影響は長きにわたりました。

さらに、彼の業績は後世においても継承され、ティコ・ブラーエのウラニボリの研究所には、プトレマイオスやコペルニクスと並んでアルペトラギウスの肖像画が飾られていたことからも、その重要性が伺えます。加えて、月のアルペトラギウス・クレーターに彼の名前が冠されるなど、天文学の歴史における彼の位置は確固たるものとなっています。

アルペトラギウスは、その理論を通じて他の学者たちに影響を与え、同時に中世の天文学の発展に貢献した重要な人物であると言えるでしょう。彼の業績は、今後も学問における重要な遺産として受け継がれていくことでしょう。

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