アレクサンダル1世 (ユーゴスラビア王)

アレクサンダル1世：ユーゴスラビア統一と悲劇の生涯

アレクサンダル1世（1888年-1934年）は、20世紀前半のユーゴスラビアの歴史において重要な役割を果たした人物です。セルビア王国の王位継承者として誕生した彼は、複雑な民族問題を抱えるバルカン半島で、ユーゴスラビア統一という大きな目標を掲げました。しかし、その強権的な統治は、逆に民族対立を激化させ、悲劇的な最期を迎えることになります。

複雑な出自と王位継承

アレクサンダル1世は、モンテネグロで、当時亡命中のカラジョルジェヴィッチ家に生まれたため、幼少期は欧州各地を転々とする生活を送りました。スイスやロシアで教育を受け、1903年のセルビアでのクーデター後、父ペータル1世がセルビア王に即位すると、王位継承者としての道を歩み始めます。兄の廃嫡を経て王太子となり、第一次バルカン戦争では軍功も挙げています。

ユーゴスラビア王国の樹立と専制政治

第一次世界大戦後、アレクサンダル1世はセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国を継承し、国王となります。しかし、彼の統治はセルビア中心主義の色合いが強く、クロアチア人などの民族からの反発を招きました。民族間の対立は激しさを増し、1928年には議会内でクロアチア人指導者が暗殺されるという悲劇的な事件が発生します。

1月6日独裁と民族弾圧

この事件を契機に、アレクサンダル1世は1929年、クーデターを起こし、独裁体制を敷きます。国号をユーゴスラビア王国と改め、行政区域を民族構成ではなく地形に基づいて再編するなど、中央集権的な統治を進めました。この政策は、クロアチア人の反体制感情をさらに高める結果となります。

その後も、クロアチア人の自治要求は抑圧され続け、多くの政治家が投獄、幽閉、あるいは国外追放されました。アレクサンダル1世は人心掌握のため、ザグレブを訪問するなど努力しましたが、民族間の溝を埋めるには至りませんでした。

マルセイユでの暗殺

1934年、アレクサンダル1世はフランスを訪問中に、マルセイユで暗殺されます。犯人はクロアチア民族主義組織ウスタシャ、あるいはブルガリア系マケドニア民族主義組織のいずれか、もしくは両者の関与であったと推測されていますが、真相は未だ不明です。この暗殺事件は、ユーゴスラビアの民族問題の深刻さを国際的に浮き彫りにしました。

アレクサンダル1世の遺産とその後

アレクサンダル1世の死後、ユーゴスラビアはクロアチア人に対する抑圧政策をいくらか緩和しますが、民族問題は根強く残りました。セルビアとクロアチア間の対立は、やがて自由主義と全体主義の対立と複雑に絡み合い、第二次世界大戦へとつながる大きな要因の一つとなりました。アレクサンダル1世の統治は、ユーゴスラビア統一という目標を掲げたものの、民族問題の解決には至らず、かえって激化させてしまったという、複雑な歴史的遺産を残しています。彼の生涯は、バルカン半島の民族問題の難しさと、強権的な統治がもたらす危険性を示す、痛ましい歴史の一断面と言えるでしょう。

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