アレクサンドル・エセーニン＝ヴォーリピン

アレクサンドル・セルゲーヴィチ・エセーニン＝ヴォーリピン

アレクサンドル・セルゲーヴィチ・エセーニン＝ヴォーリピン（Алекса́ндр Серге́евич Есе́нин-Во́льпин、1924年5月12日 - 2016年3月16日）は、20世紀のロシアが生んだ多才な人物です。詩人、数学者、そして何よりもソビエト連邦体制下で勇気ある異議申し立てを行った人権活動家として知られています。ロシアを代表する詩人セルゲイ・エセーニンを父に持ち、サンクトペテルブルク（当時はレニングラード）で生を受けました。

波乱に満ちた前半生

1941年、モスクワ大学の工学・数学部に入学した彼は、そこで論理学者・哲学者のバートランド・ラッセルの数学基礎論に関する著作から深い影響を受けます。1946年に大学を卒業後、位相空間論に関する博士論文の準備を進めていましたが、1949年に発表した詩がソビエト当局によって「反ソビエト的」と見なされたことから、突然逮捕され、精神科病院への強制収容を経験します。

翌1950年には、「反社会分子」の烙印を押され、カザフスタンのカラガンダ地方へ流刑となる過酷な運命を強いられます。しかし、この流刑地にあっても彼の学問への情熱は衰えず、数学の研究に没頭しました。特に1956年頃からは、無限の存在を疑う独自の数学基礎論である超有限主義（ultrafinitism）の体系化に本格的に取り組み始めます。1953年、ヨシフ・スターリンの死去に伴う恩赦によって解放された彼は、束の間の自由を得ますが、1959年には非合法の地下出版（サミズダート）に関わったことが発覚し、再び逮捕、精神科病院への再収容を余儀なくされました。

人権擁護への活動

エセーニン＝ヴォーリピンの名が特に広く知られるようになったのは、彼が行った人権擁護のための具体的な行動によってです。1965年12月5日、彼はモスクワ中心部のプーシキン広場において、ソ連では極めて異例となる公開のデモ集会を主導しました。彼はこの集会を「グラスノスチ（情報公開）集会」と命名し、その目的を明確にしました。

これは、海外で反体制的な著作を発表したとして逮捕・起訴されていた作家ユーリー・ダニエリとアンドレイ・シニャフスキーに対する裁判について、ソビエト連邦憲法で保障された公開裁判の原則に従い、透明性を確保するよう政府に強く求めるものでした。集会の開催日である12月5日が、奇しくもソ連憲法記念日であったことは、彼の主張に象徴的な意味合いを与え、ソ連憲法第125条で定められた言論・集会の自由を盾にした、体制内からの異議申し立てという画期的な試みとなりました。しかし、この勇気ある行動はすぐにKGBの介入によって鎮圧され、彼自身も集会中に逮捕されました。

その後もエセーニン＝ヴォーリピンは人権活動に関与し続け、1970年には、ノーベル物理学賞受賞者である著名な物理学者アンドレイ・サハロフらが設立したソビエト連邦人権委員会の初期メンバーとして活動しました。

亡命と晩年

ソビエト当局による圧力は続き、1972年には国外追放される形でアメリカ合衆国への移住を余儀なくされました。新天地での生活では、ボストン大学をはじめとするいくつかの大学で教壇に立ち、数学や論理学、そして人権に関する自身の思索を深め、後進の指導にあたります。

波乱に満ちた生涯を送ったアレクサンドル・セルゲーヴィチ・エセーニン＝ヴォーリピンは、詩人、数学者、そして体制に屈しない人権活動家として、その名を歴史に刻みました。特にソ連時代の異議申し立て運動における彼の役割は大きく、後の「グラスノスチ」の萌芽とも言える公開集会の開催は、人々の記憶に残る出来事となりました。

彼は2016年3月16日、91歳でその波乱の生涯を閉じました。

主な著作

A. S. Yessenin-Volpin, A Leaf of Spring, Frederick A. Praeger, 1961.
A. S. Yessenin-Volpin, "The ultra-intuitionistic criticism and the antitraditional program for foundations of mathematics" in A. Kino, J. Myhill, and R. E. Vesley (eds.), Intuitionism and Proof Theory, North-Holland, 1970, pp. 3-45.
A. S. Yessenin-Volpin, "On the logic of the moral sciences," Social Problems*, No.12, 1972 (in Russian).

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