アレクサンドル・クラスノシチョーコフ

アレクサンドル・ミハイロヴィチ・クラスノシチョーコフは、1880年にウクライナのチョルノーブィリで生まれ、革命運動に身を投じたユダヤ人です。メンシェビキ国際派に近い立場でしたが、弾圧を逃れてアメリカへ亡命しました。ニューヨークでは衣料関係の労働者として働きながら、アメリカ社会党で活動し、ニューヨーク市立大学夜間部で学びました。ポーランド系ユダヤ人女性と結婚後、シカゴに移り住み、ペンキ屋兼内装業を営む傍ら、シカゴ大学夜間部にも通い、イリノイ州弁護士の資格を取得しました。

シカゴでは法律事務所を開業する一方、ユダヤ人移民のための教育機関であるシカゴ労働者学校の初代校長兼教育主任も務めました。1917年、ロシア二月革命を機に帰国を決意。太平洋、横浜、敦賀を経てウラジオストクに上陸し、ボルシェビキとして地区ソヴィエトに参加しました。十月革命の報を受けると、ハバロフスクで設立された「極東地方ソヴィエト委員会」の議長に就任し、独自通貨の発行も行いました。しかし、シベリア出兵を行った日本軍の侵攻により委員会は解散。クラスノシチョーコフは辛くも逃れましたが、白軍に拘束され、イルクーツク刑務所に収監されました。

1919年末、チェコ軍団によって解放されたクラスノシチョーコフは、共産党(ボル)イルクーツク地区委員会議長に迎えられました。その後、白軍と干渉国軍のシベリアでの攻勢を受け、レーニンはヨーロッパロシアへの影響を避けるため、緩衝国家として極東共和国の設立を構想。1920年4月6日、ウラン・ウデを首都として極東共和国が成立し、クラスノシチョーコフは初代大統領に就任しました。後に首都はチタに移されました。

クラスノシチョーコフは、モスクワ政権の傀儡という宿命を背負いながらも、アメリカ型の自由主義経済を一部導入し、ソ連では非合法とされていた社会革命党や自由主義者、王党派の存在を認め、男女平等を掲げるなど、自由主義的な国家建設を目指しました。しかし、この姿勢は教条主義的なボルシェビキ活動家との対立を招き、モスクワ出張中に大統領職を解任され、二度とシベリアに戻ることはありませんでした。レーニンが新経済政策を開始すると、干渉勢力が撤退し、極東共和国もその役割を終えて消滅しました。

高等教育を受けた者が少なかったモスクワ中央において、法律と財政金融の知識を持つクラスノシチョーコフは、レーニンに見出され、財務人民委員部第二次官、全ロシア商工銀行頭取に抜擢されました。しかし、反ネップ勢力の攻撃により冤罪裁判で失脚。服役後、農務人民委員部傘下の新繊事業発公社責任者として復活しましたが、1937年にスターリンの大粛清により反逆罪で銃殺されました。1956年、｢雪解け」によって名誉回復を果たし、遺骨はモスクワのドンスコエ墓地に埋葬されています。

クラスノシチョーコフは、激動の時代を生き抜いた政治家であり、自由主義的な思想を持ちながらも、ソ連の体制に翻弄された悲劇的な人物として記憶されています。

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