アレクサンドル・コジェーヴ

アレクサンドル・コジェーヴ：ヘーゲル解釈と歴史の終焉

アレクサンドル・コジェーヴ（1902-1968）は、20世紀を代表する哲学者の一人です。ロシア生まれながら、フランスで活躍し、独自のヘーゲル解釈で知られています。彼の生涯と業績を辿りながら、その思想的影響を探っていきましょう。

激動の生い立ちと哲学への道

コジェーヴは、モスクワの裕福な家庭に生まれました。父は日露戦争で戦死、義父は革命の混乱の中で暗殺されるなど、幼少期から激動の時代を経験します。こうした経験は、彼の哲学に深く刻まれることになります。革命期には「哲学日記」を執筆し始め、既に「死の観念」について考察していたという記録が残されています。食糧難の中で闇市に出入りし、投獄されるという苦難も経験しています。

1920年、祖国を離れドイツへ亡命。ハイデルベルクとベルリンで哲学、東洋語などを学び、1926年に学位を取得します。その後、パリに移りソルボンヌ大学などで研究を続け、高等研究院の科学史家アレクサンドル・コイレと交流を深めます。この間、数学、物理学、宗教哲学、東洋語などを幅広く研究していました。

ヘーゲル『精神現象学』講義とフランス現代思想

コジェーヴの最も大きな功績は、1933年から1939年まで高等研究実習院で行われたヘーゲル『精神現象学』の講義です。この講義は、戦後のヨーロッパにおけるヘーゲル研究の復興に大きな影響を与えました。ラカン、バタイユ、メルロ＝ポンティなど、錚々たる聴講者たちが、コジェーヴのヘーゲル解釈に触れ、後のフランス現代思想に大きな影響を与えたのです。この講義の内容は後に『ヘーゲル読解入門』として出版され、広く読まれることになります。

コジェーヴは、ヘーゲル哲学を独自の視点で解釈しました。特に、「歴史の終焉」という概念は、彼のヘーゲル解釈の中核をなすものです。コジェーヴは、ヘーゲルが予言した「絶対知」の達成を、「ナポレオンによって歴史が終焉を迎えた」と解釈しました。これは、近代の合理主義と自由主義の勝利、そして歴史の終わりを意味します。この解釈は、のちにフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論にも影響を与えました。

官僚としての活躍と晩年

第二次世界大戦後、コジェーヴはフランス政府の要職に就き、国際機関で活躍します。マーシャル・プランやGATTなど、戦後の国際経済秩序の構築に携わりました。この間も、哲学研究を継続し、『法の現象学』などの著作を発表しています。

晩年は、結核で療養生活を送る時期もありましたが、自身の思想体系の構築に尽力し、「カント論」、「概念・時間・言説」などの著作に取り組みました。1959年には日本を訪問し、その経験が彼の思想に新たな展開をもたらしたと言われています。1968年、ブリュッセルでの会議中に心臓発作で急死しました。

コジェーヴの思想的影響

コジェーヴの思想は、ヘーゲル解釈にとどまらず、フランス現代思想、そして現代社会に多大な影響を与えました。彼の「歴史の終焉」論は、歴史の終わり、あるいは歴史の新たな段階への移行について考える際の重要な視座となっています。また、彼のヘーゲル解釈は、人間の欲望、自由、そして歴史との関係性を理解するための重要な枠組みを提供しています。

彼の著作は、現在でも世界中で読まれ、研究され続けています。コジェーヴの生涯と思想は、20世紀の知的な冒険であり、現代社会を考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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