アレクサンドル・トローネル

アレクサンドル・トローネル：巨匠監督と共に歩んだ、映画美術の軌跡

アレクサンドル・トローネル (1906-1993) は、20世紀映画史に燦然と輝く美術監督です。フランスを拠点に活躍し、マルセル・カルネ、ビリー・ワイルダーといった、フランスとアメリカを代表する巨匠監督たちの信頼を勝ち得ました。彼の卓越した才能と、激動の時代を生き抜いたドラマチックな人生は、多くの映画ファンを魅了し続けています。

ハンガリーからパリへ、そして世界の映画界へ

1906年、ハンガリー・ブダペストに生まれたトローネルは、ブダペスト国立美術学校で研鑽を積み、画家としてキャリアをスタートさせます。しかし、1929年、ファシスト政権下の祖国を離れ、パリへと渡ります。

パリで彼は、ラザール・メールソンという当時既に名声を築き始めていた美術監督のもとで助手を務め、映画美術の世界に足を踏み入れました。ルネ・クレールやジャック・フェデーといった監督の作品に携わり、着実に経験を積んでいきます。

マルセル・カルネとの黄金時代と、戦争下の苦難

独立後、トローネルは数々の才能ある監督たちとコラボレーションを重ねますが、特にマルセル・カルネ作品との関わりは深く、多くの作品でセットデザインを担当しました。中でも有名なのは、第二次世界大戦下のフランスで制作された『天井桟敷の人々』です。ユダヤ人であったトローネルは、ナチスの迫害を逃れるため、撮影所から離れた山荘に身を潜めながら、遠隔地から現場を指揮し、見事なセットを作り上げました。この逸話は、彼の才能と強い意志、そして困難に屈しない精神を象徴する出来事として広く知られています。

アメリカでの成功と、晩年の活躍

戦後、トローネルは活躍の場をアメリカに移し、ウィリアム・ワイラーやビリー・ワイルダーといったハリウッドの巨匠たちと仕事をするようになりました。1960年には、ビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵貸します』でアカデミー賞美術賞を受賞。この作品は、彼のキャリアにおける大きな成功の一つとなりました。

彼の才能は年齢を重ねても衰えることはありませんでした。78歳という高齢で制作されたリュック・ベッソンの『サブウェイ』では、近未来的なメトロのセットデザインを担当し、セザール美術賞を受賞。この作品は、彼の晩年の活躍を象徴する代表作として評価されています。

膨大なフィルモグラフィーと、多様なスタイル

トローネルのフィルモグラフィーは非常に長く、多岐に渡ります。マルセル・カルネ作品を筆頭に、詩的で幻想的な世界観を持つ作品から、ハリウッド映画特有の華麗で洗練された作品まで、彼の作品には多様なスタイルが見られます。その幅広さこそが、彼の類まれな才能の証と言えるでしょう。

数々の賞と、永遠の眠り

アカデミー賞を始め、数々の賞を受賞したトローネルは、1993年、フランスで87歳で亡くなりました。友人の詩人ジャック・プレヴェールと共に眠る、小さな墓地は、彼の静かな生涯の幕切れを象徴しているかのようです。

アレクサンドル・トローネルは、単なる美術監督ではありませんでした。彼は、時代を反映し、監督たちのビジョンを具現化する、真のアーティストでした。彼の功績は、これからも映画史に刻み込まれ続けることでしょう。

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