アレクシオス5世ドゥーカス

アレクシオス5世ドゥーカス・ムルツフロスは、東ローマ帝国アンゲロス王朝の第4代皇帝として短期間在位しました。彼の特徴的な濃い眉毛から「ムルツフロス（眉毛が濃い人）」という渾名で知られています。しかし、彼の出自ははっきりしておらず、ドゥーカス姓を名乗っていましたが、アンゲロス家との直接的な血縁関係はありませんでした。彼は、先帝アレクシオス3世の娘エウドキアと結婚した娘婿という立場で、帝位に近づくことになりました。エウドキアはセルビア君主との結婚後に死別しており、ムルツフロスの台頭を後押しする背景となりました。

アレクシオス3世が追放された後、イサキオス2世とアレクシオス4世が共同皇帝として復位しましたが、彼らは第4回十字軍の支援を得るために、過酷な献納金を約束しました。このことが国民や貴族の不満を招き、両皇帝への支持は失墜します。1204年1月、ニコラオス・カナボスという青年が皇帝候補として擁立され、その背後で陰謀を操っていたのがムルツフロスでした。アレクシオス4世は、ムルツフロスの策略を見抜けず、彼を十字軍への支援要請の使者に任命する誤りを犯しました。この機会を利用して、ムルツフロスは自ら帝位を奪うことを決意し、同月末にアレクシオス5世として即位しました。

即位後、ムルツフロスは権力を確固たるものとするため、邪魔者を排除しました。まず、皇帝候補として擁立されていたニコラオス・カナボスを殺害し、さらにアレクシオス4世も暗殺しました。イサキオス2世は、息子の死に衝撃を受けて間もなく亡くなりました。これにより、ムルツフロスは完全に権力を掌握しました。彼は、先帝が十字軍に約束した献納金を破棄し、国民の支持を集めようとしましたが、この行為は十字軍の怒りを買いました。

激怒した第4回十字軍は、コンスタンティノポリスへの攻撃を開始しました。ムルツフロスは首都防衛を試みましたが、十字軍の攻撃を防ぎきれず、首都を放棄して逃亡を余儀なくされました。しかし、彼は十字軍によって捕縛され、首都のテオドシウス記念塔の頂上から突き落とされるという悲劇的な最期を迎えました。

彼の死後、コンスタンティノス・ラスカリスが皇帝に即位しましたが、時すでに遅く、首都は十字軍によって陥落寸前でした。その結果、コンスタンティノポリスは十字軍の手に落ち、東ローマ帝国は一時的に滅亡という危機に見舞われました。アレクシオス5世の治世は短く、その結末は東ローマ帝国の歴史における大きな転換点となりました。

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