アンゲロス王朝

アンゲロス王朝の興亡

アンゲロス王朝は、東ローマ帝国において1185年から1204年までの短い期間存在した王朝です。その家名は「天使」または「アミダ出身」を意味するとされています。コムネノス王朝の血を引くイサキオス2世が創始者ですが、その治世は内紛と失政に満ち、帝国は混乱と衰退を深めました。

王朝の成立

1185年、コムネノス王朝のアンドロニコス1世コムネノスの強権的な政治に対する貴族や民衆の反発が頂点に達し、イサキオス2世アンゲロスが擁立されて反乱が起こりました。アンドロニコス1世は処刑され、イサキオス2世が皇帝に即位し、アンゲロス王朝が成立しました。イサキオス2世は、コムネノス王朝初代皇帝アレクシオス1世コムネノスの娘テオドラの孫にあたり、血統的にはコムネノス王朝とも繋がっていました。

落日の時代

イサキオス2世は、前皇帝の強権政治を否定し、政治の緩和を目指しましたが、これは逆に政治の弛緩を招き、さらにイサキオス2世自身の奢侈な生活が帝国財政を破綻へと導きました。対外的にもブルガリア帝国の独立やキプロス島の喪失など失政が重なり、周囲の不満が高まりました。

1195年、イサキオス2世の弟であるアレクシオス3世アンゲロスが反乱を起こし、兄を廃位・去勢して幽閉し、自らが皇帝に即位しました。しかし、アレクシオス3世は兄以上に暗愚な皇帝で、財政再建のために歴代皇帝の墓所を暴き、ヴェネツィア共和国との関係を断絶するなど、暴政を繰り返しました。

1203年、廃位されたイサキオス2世の子、アレクシオス4世アンゲロスが、ヴェネツィアに集結していた十字軍を味方に引き入れ、コンスタンティノープルに侵攻しました。アレクシオス3世は小アジアに逃亡し、イサキオス2世が復位し、アレクシオス4世も共同皇帝として即位しましたが、彼らが十字軍を味方につけた代償として、国民に重税が課せられました。これにより、貴族や民衆の反発が激化しました。

王朝の滅亡

1204年、イサキオス2世とアレクシオス4世は、貴族や民衆の支持を得た皇族のアレクシオス5世ドゥーカスによって殺害されました。アレクシオス5世はアンゲロス王朝の第4代皇帝に即位しましたが、十字軍は資金支払いを期待できなくなったとして、再びコンスタンティノープルに侵攻し、占領・略奪しました。アレクシオス5世は殺害され、コンスタンティノス・ラスカリスが第5代皇帝となりましたが、十字軍の侵攻を防ぎきれず、小アジアに逃走しました。これによりアンゲロス王朝は滅亡し、東ローマ帝国も一時的に消滅しました。

その後、十字軍によりラテン帝国が建国され、東ローマ帝国の皇族は各地に亡命政権を築いて対抗しました。1261年にパレオロゴス朝が東ローマ帝国を再興するまで、分裂状態が続きました。また、アンゲロス王朝の生き残りであるアレクシオス3世は、娘婿のテオドロス1世ラスカリスがニカイア帝国の皇帝として即位したことを認めており、ニカイア帝国は東ローマ帝国の後継王朝の一つとみなすこともできます。

アンゲロス王朝の国政

アンゲロス王朝が短命に終わった要因は、コムネノス王朝末期からの財政破綻を引き継いだこと、そして歴代皇帝が無能であったことにあります。イサキオス2世は官位を金銭で売買し、官僚機構を腐敗させました。アレクシオス3世は暴君であり、アレクシオス4世は一定の能力を備えていたものの、時すでに遅く、帝国を立て直すことはできませんでした。何よりも、アンゲロス王朝内部での内紛が王朝の崩壊を決定的なものにしたと言えるでしょう。

アンゲロス王朝皇帝一覧

イサキオス2世アンゲロス（1185年 - 1195年、1203年）
アレクシオス3世アンゲロス（1195年 - 1203年）
アレクシオス4世アンゲロス（1203年 - 1204年）
アレクシオス5世ドゥーカス（1204年）
コンスタンティノス・ラスカリス（1204年）


アンゲロス王朝は短命でしたが、東ローマ帝国の衰退を象徴する重要な時代でした。


参考文献:
井上浩一 『ビザンツ皇妃列伝 憧れの都に咲いた花』 筑摩書房、1996年


関連事項:

エピロス専制侯国
アンゲロス王朝下でのビザンチン帝国

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