アレクセイ・スタロビンスキー

アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・スタロビンスキー

現代宇宙物理学の発展に多大な貢献をしたロシアの理論物理学者、アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・スタロビンスキー氏は、1948年4月19日に生まれ、2023年12月21日に76歳で逝去しました。彼は、特に宇宙の誕生直後の劇的な進化を説明する「インフレーション理論」の分野において、世界の研究者からその先駆的な業績を高く評価されています。ロシア科学アカデミーの会員としても活躍しました。

スタロビンスキー氏の学究生活は、1972年に名門モスクワ大学を卒業したことから始まりました。大学では、20世紀物理学の巨人であるヤーコフ・ゼルドビッチ氏に師事し、深い洞察力と研究者としての基礎を築きました。卒業後、ロシア科学アカデミーに所属するランダウ理論物理学研究所に進み、1975年には博士号を取得。以降、長年にわたり同研究所を主な研究拠点として、宇宙論や重力理論に関する研究を精力的に続け、数々の重要な成果を生み出しました。

彼の最も顕著な貢献の一つは、宇宙のインフレーション理論の提唱における先駆的な役割です。欧米の物理学界では、アメリカの物理学者アラン・グース氏と並んで、この革新的なアイデアを初めて提示した研究者の一人と広く認識されています。インフレーション理論は、ビッグバン直後の極めて短い期間に宇宙が指数関数的に急膨張したと考えることで、現在の宇宙が持つ平坦性、等方性、そして構造形成の種となる密度ゆらぎの起源といった、従来のビッグバン理論では説明が難しかった多くの謎を見事に解決しました。この理論は、その後の宇宙論研究の方向性を決定づける画期的なブレークスルーとなりました。

スタロビンスキー氏は、ロシア国内での研究に加え、国際的な学術交流にも積極的に参加しました。特に、フランスとは深いつながりがあり、1991年にはパリの高等師範学校（École Normale Supérieure）、2006年にはアンリ・ポアンカレ研究所（Institut Henri Poincaré）で客員研究員として招聘され、研究活動を行いました。また、日本とも緊密な連携を持ち、京都大学には1994年と2007年の二度にわたり、そして東京大学には2000年から2001年にかけて客員研究員として滞在し、日本の研究者とも活発な交流を持ちました。これらの国際的な活動は、彼の研究視野を広げると同時に、世界の宇宙物理学コミュニティの発展にも寄与しました。

その卓越した研究業績は、国内外の権威ある賞によって高く評価されました。主な受賞歴には以下のようなものがあります。

• - 2010年: オスカル・クラインメダル
• - 2013年: グルーバー賞宇宙論部門
• - 2014年: カヴリ賞宇宙物理学部門
• - 2019年: 国際理論物理学センター（ICTP）のディラック・メダル
• - 2021年: ポメランチュク賞

これらの受賞は、彼の研究が宇宙物理学の最前線において国際的に認められていたことを明確に示しています。

アレクセイ・スタロビンスキー氏は、宇宙の最も深遠な謎の一つである「宇宙の始まり」に関する私たちの理解を大きく進歩させました。彼の先駆的な研究と思索は、現代宇宙論の確固たる基盤の一部として、後世の研究者たちに引き継がれていくことでしょう。2023年の逝去は、世界の宇宙物理学界にとって大きな損失となりました。

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