アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像

アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像

『アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像』は、イタリアのルネサンス時代における偉大な画家ラファエロ・サンティによって描かれた作品です。この肖像画には、後にローマ教皇パウルス3世となるアレッサンドロ・ファルネーゼが描かれています。ファルネーゼ枢機卿は、メディチ家の庇護の下で権力を拡大していたパルマの司教であり、彼の肖像はその時代の政治的背景をよく反映しています。作品はナポリにあるカポディモンテ美術館に収蔵されています。

作品の歴史

この作品に関する最初の記録は1587年まで遡ります。この年、ラヌッチオ・ファルネーゼの衣装部屋に所蔵されていたとされています。1734年には、パルマのピロッタ宮殿に移され、1799年にはフランスによって要求された30点の作品の一部となりました。以降、一時期ローマに保管された後、1800年にはドメニコ・ヴェヌーティによってナポリのフランカヴィラ宮殿に取り戻されました。

この肖像画は、19世紀の美術館ガイドブックでは異なる名称で言及されており、時代背景や名の混同から誤解を招きました。しかし、20世紀になってからは、ファルネーゼ・コレクションの研究が進み、作品は正当にアレッサンドロ・ファルネーゼの肖像として認識されるようになりました。様式や技法から、ラファエロによるものであることを証明する証拠が次第に明らかになってきました。

描写の特徴

肖像画の中で、アレッサンドロ・ファルネーゼは半身像で表現され、左を向きながら鑑賞者を見つめています。彼は赤いケープと白い衣服を身につけ、自信に満ち溢れた印象を与えています。この作品からは、均一な光が右側の開口部から入り込み、その背後には美しい風景が広がっています。開口部には川や丘、建物が描かれ、遠くの地平線が明るさの中に消えていく様子が表現されています。この風景は、フィレンツェ派に共通する特徴を持ち、ラファエロの他の作品とも類似性が見られます。

保存状態と論争

ただし、作品の保存状態は良好とは言えません。過去の修復作業によって、ラファエロの技量が明らかになった一方で、古い時代に受けた損傷も浮き彫りになりました。特に背景の暗色部分やファルネーゼの顔は、炭酸ナトリウムを用いた洗浄によって損傷を受けており、赤い衣服の色も退色していると考えられています。

また、ラファエロへの帰属についても議論があります。1860年や1890年には、作品がラファエロの弟子によるものだと主張する意見があったほか、他の画家のスタイルに似ているとの指摘もありました。それでも、1920年以降、著名な研究者たちによって再びラファエロへの帰属が支持されるようになりましたが、保存状態がその評価を妨げているという意見も多いです。

このように『アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像』は、単なる肖像画にとどまらず、ルネサンス期の政治的背景や芸術の流れを考察する上で重要な作品です。それは、アートの鑑賞者にとって興味深いストーリーを提供するだけでなく、時代を超えて評価され続けています。

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