アロフ・ド・ヴィニャクールと小姓の肖像

『アロフ・ド・ウィニャクールと小姓の肖像』は、バロック期の巨匠カラヴァッジョが1607年から1608年頃に制作した絵画で、現在はパリのルーブル美術館に所蔵されています。この作品は、マルタ騎士団長アロフ・ド・ヴィニャクールとその小姓を描いた二重肖像画であり、カラヴァッジョが描いたヴィニャクールの肖像画としては現存する唯一のものです。

アロフ・ド・ヴィニャクールは、1564年に17歳で聖ヨハネ騎士団（マルタ騎士団）に入団し、翌年のマルタ包囲戦で武勲を立てました。1601年には騎士団長に選出され、騎士団の威信を高めることに尽力しました。ヴィニャクールは、ローマとナポリで最も著名な画家であったカラヴァッジョを自身の宮廷に迎え入れました。

カラヴァッジョは1607年7月にナポリからマルタに到着し、すぐにヴィニャクールや他の騎士団高官の肖像画の制作に取り掛かりました。この肖像画では、ヴィニャクールは1571年のレパントの海戦当時の古い鎧を身に着け、指揮棒を手にしています。鎧の輝きは、騎士団の軍事力を象徴しています。当時60歳ほどであったヴィニャクールは、島の要塞を強化し、都市への給水のための水道橋を建設するなど、多方面で活躍しました。彼は騎士団を事実上の主権国家に変え、教皇以外の誰にも責任を負わない王子のように振る舞いました。

ヴィニャクールは、若い小姓たちを自身の周囲に侍らせることで、王子がいる宮廷のファッションを模倣しました。小姓たちはヨーロッパの高貴なカトリックの家柄から選ばれていました。この肖像画に描かれている小姓は、フランス貴族のニコラ・ド・パリ・ボワシーであると考えられています。ボワシーは構図の中でやや不自然な位置に配置されており、ヴィニャクールの横に並んで立っているように見えるものの、実際には手が肘に重なるなど、別々に描かれたことが示唆されます。これは、カラヴァッジョがモデルを前にして描く習慣がなかったためと考えられています。ヴィニャクールと小姓は、同時にアトリエにいた可能性は低いでしょう。

小姓の生き生きとした表情と注意深い視線は、この作品の魅力の一つです。後世の画家たちもこの少年を描いたほど、彼の存在は魅力的でした。黒と金のミラノ風の鎧をまとったヴィニャクールは、画面外を上向きに見つめ、威厳を放っています。鑑賞者は畏敬の念をもってヴィニャクールを見つめることになります。一方、小姓は人間味あふれる表情で、鑑賞者の共感を呼び起こします。小姓との二重肖像画は、当時としては珍しいものでした。ヴィニャクールが自身の宮廷の威厳を示すために依頼した可能性がありますが、カラヴァッジョがティツィアーノの作品に触発された可能性も指摘されています。カラヴァッジョは若い頃にミラノで、ティツィアーノの『部隊に訓示するアルフォンソ・ダバロス』を見たことがあったかもしれません。この作品では、ミラノのスペイン総督が兜を小姓に持たせ、騎士たちに訓示を与えている様子が描かれています。

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