アンカット本

アンカット本：裁断されていない本の魅力

アンカット本とは、書籍の小口（本の端）を三方とも裁断せずに残したまま製本された書籍のことです。一般的な書籍は印刷された大きな紙を折り、必要なサイズに裁断して製本されますが、アンカット本はこの最後の裁断工程を省いた、あるいは一部だけ行ったものです。

歴史と製本方法

ヨーロッパでは17世紀以前、書籍はアンカットの状態、つまり裁断されていない状態で流通していました。読者は自身でペーパーナイフなどでページを切り開き、読むのが一般的でした。これは、個々の読者が自分の好みに合わせて製本し、蔵書として楽しむ文化が根付いていたためです。フランスでは20世紀半ば頃まで、アンカットで出版される書籍も存在しました。

現代でもヨーロッパでは手製本が趣味として盛んであり、アンカット本は愛好家によって制作されています。多くは仮製本という、最終的な製本前の状態（表紙と本文を仮留めした状態）で流通しており、購入者は自身で最終的な製本を行うことを前提としています。日本では、特殊な例を除いてアンカット本はほとんど作られていません。

フランス装との違い

日本ではアンカット本を「フランス装」または「フランス綴じ」と呼ぶこともありますが、これは正確ではありません。フランス装は、仮製本の一種で、印刷用紙の周囲を内側に折り込んで表紙とし、本文は糸綴じで製本され、その後で裁断される製本方法です。アンカット本とは、裁断の有無という点で根本的に異なります。

天アンカット

小口のうち、上方（天）だけを裁断せずに残す製本方法を「天アンカット」といいます。岩波文庫、新潮文庫など、多くの文庫本や新書がこの方法で製本されています。三方全てを裁断するよりも手間とコストがかかります。これは、天を裁断せずに済むように紙を折りたたむ必要があるため、印刷段階から特別な工夫が必要となるからです。

岩波文庫は1927年の創刊以来、天アンカットと栞ひも（スピン）を特徴とする製本を採用しました。「フランス装風の洒落た雰囲気を出すため」という理由からだったとされています。その後、多くの文庫本が岩波文庫の形式を踏襲するようになりました。現在では、岩波文庫は栞ひもを廃止しましたが、天アンカットは維持しています。新潮文庫は、スピン（栞ひも）にこだわりを持っており、スピンの取り付けのために断裁ができないと説明しています。

アンカット本の魅力

アンカット本は、未開の状態の本を所有するという独特の満足感を与えてくれます。古書のような趣きがあり、自分でページを切り開く行為は、まるで歴史の扉を開けるような体験です。また、手製本愛好家にとっては、自分自身で製本を完成させる喜び、そして個性あふれる一冊を手に入れる喜びがあります。

まとめ

アンカット本は、伝統的な製本方法と、現代の手製本文化を繋ぐ貴重な存在です。その希少性と、自分でページを開くという行為を通して得られる特別な体験は、書籍に対する新たな視点を与えてくれるでしょう。

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