アンソニー・ベーコン (1558-1601)

アンソニー・ベーコン（1558年 - 1601年）は、テューダー朝時代のイングランドで政治家およびスパイとして活動した人物です。哲学者として名高いフランシス・ベーコンの同母兄にあたります。

1558年、アンソニーは、高名な政治家サー・ニコラス・ベーコンとその妻アン（旧姓クック）の息子として、ロンドン・ストランドのヨーク・ハウスで誕生しました。父ニコラスは、エリザベス1世の治世初期に大法官、庶民院議長、国璽尚書を歴任した重鎮であり、母アンは、女王の側近である初代バーリー男爵ウィリアム・セシルの妻ミルドレッド・クックの妹でした。また、アンソニーの母方の従弟には、後に初代ソールズベリー伯となるロバート・セシルがいます。

アンソニーは、3歳年下の弟フランシスと行動を共にすることが多く、1573年には父の指示で揃ってケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学しました。しかし、1575年には学位を取得せずに大学を離れ、勉学期間はわずか2年間でした。翌1576年には、弟とともにグレイ法曹院に移りましたが、1579年に父が死去し、わずかな遺産しか残されなかったため、兄弟は後ろ盾となるはずだったバーリー男爵の支援を得られませんでした。そのため、兄弟はエセックス伯ロバート・デヴァルーに接近し、フランシス・ウォルシンガムの諜報網の再建に尽力しました。

1579年に父の死を機に帰国した弟フランシスと入れ替わるように、アンソニーは諜報員として大陸に渡り、1592年に帰国しました。帰国後はエセックス伯に仕え、諜報活動に専念し、エセックス伯の諜報機関を統括するようになりました。スペインに買収されたスパイを摘発する中で、1594年にはポルトガル系のユダヤ人医師ロドリゴ・ロペスが女王暗殺を企てたとして逮捕される事件が起こりました。アンソニーは、エセックス伯と連携して事件を調査し、ロペスから暗殺の自白を引き出しましたが、後世の研究ではロペスの無実が指摘されています。また、1593年の議会では、弟フランシスとともに庶民院議員に選出されましたが、体調が優れなかったため、議会に出席することはなかったようです。

エセックス伯が女王と対立するようになると、アンソニーは弟フランシスとともに仲介に奔走しましたが、事態は好転せず、1600年には女王の命令でエセックス伯の屋敷から退去させられました。翌1601年2月にエセックス伯が反乱を起こして処刑された後、アンソニーは同年5月に亡くなりました。アンソニーの死因は、元々健康状態が優れなかったことに加え、エセックス伯の救出活動による心労が重なったためだと考えられています。父から受け継いだ遺産であるゴランベリー・ハウスは、弟フランシスが相続しました。

参考文献
塚田富治『イギリス思想叢書2 ベイコン』研究社出版、1996年。
石井美樹子『エリザベス 華麗なる孤独』中央公論新社、2009年。
* 石井栄一『ベーコン 人と思想43』清水書院、1977年（新装版2016年）。

もう一度検索