アンテロース

アンテロース（古希: Ἀντέρως, Anterōs）は、ギリシア神話における返愛の神であり、「愛に対するもの」という意味を持つ名前が示す通り、相互的な愛、特に同性間の愛を象徴する存在として知られています。また、恋の復讐者という側面も持ち合わせています。

しばしば長母音を省略してアンテロスとも表記されるこの神は、軍神アレースと愛と美の女神アプロディーテーの間に生まれた子であり、愛の神エロースの弟とされています。エロースが人々に恋心を抱かせる神であるのに対し、アンテロースはそれに応える、あるいはその歪みを正す役割を担っています。

神話によれば、エロースの放つ矢は、射られた者に一方的な激しい恋心を抱かせるとされています。アンテロースは、その片思いの対象者に矢を放つことで、双方の気持ちを通じ合わせ、愛を成就させると伝えられています。この神の存在は、愛が一方通行ではなく、相互的なものであるべきだという考え方を表していると言えるでしょう。

また、エロースが目隠しをした状態で矢を乱射する「盲目のクピド」のモチーフにおいて、アンテロースは重要な役割を果たします。この状況では、エロースの矢が不適切な相手、例えば既婚者や親族などに当たってしまうことがあります。アンテロースは、そうした盲目的な愛に対して矢を放ち、その愛を理性的なものへと変質させるとされています。この点において、アンテロースは愛を退ける、あるいは愛をコントロールする神としても解釈することができるでしょう。

このように、アンテロースは単なる返愛の神としてだけでなく、愛のバランスを保ち、理性的な愛を促進する神としても捉えられています。彼の存在は、愛の本質が一方的な感情ではなく、双方の感情の交流と理解によって成り立つという、深い洞察を示していると言えるでしょう。

関連する神話の神々としては、兄弟であるエロースを筆頭に、両親であるアレースとアプロディーテーが挙げられます。これらの神々との関係性を理解することで、アンテロースの役割や性格についてより深く理解することができるでしょう。

このように、アンテロースはギリシア神話において、愛の多面性を象徴する重要な神として、今日まで語り継がれています。

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