アントニオ・カノーヴァ

アントニオ・カノーヴァ：新古典主義彫刻の巨匠

アントニオ・カノーヴァ（1757年-1822年）は、イタリアを代表する新古典主義彫刻家です。バロック美術の過剰な装飾性を排し、古代ギリシャ・ローマ彫刻に回帰した洗練されたスタイルで知られ、数々の名作を後世に残しました。

幼少期と修業時代

ヴェネト州ポッサーニョで石工の家に生まれたカノーヴァは、幼い頃から祖父から彫刻の手ほどきを受けました。才能豊かなカノーヴァは、すぐに卓越した技術を身につけ、ヴェネツィアの貴族ファリエ家の庇護を受けることになります。ファリエ家の後援により、カノーヴァは彫刻家ジュゼッペ・ベルナルディ・トレッツィに師事し、技術を磨き上げました。16歳で制作した『オルフェウスとエウリュディケー』は、早くも才能の片鱗を示す作品として高い評価を受けました。

その後もカノーヴァは研鑽を続け、解剖学や自然の観察、演劇の表現などを熱心に研究しました。3年間の作品制作休止期間を経て1776年に完成させた『オルフェウスとエウリュディケー』は、以前の作品を凌駕する完成度を誇り、名声を高めました。『ダイダロスとイカロス』（1779年）なども高い評価を受け、カノーヴァはローマへの移住を決意します。

ローマでの活躍

1780年、カノーヴァはローマへ移住します。古代ローマ遺跡の研究と、ローマの芸術家たちとの競争を通して、カノーヴァの芸術は大きく発展しました。ローマでの初期の代表作として挙げられるのが、『テセウスとミノタウロス』（1781年-1783年）です。この作品は、簡潔さと自然主義的な表現で高い評価を受け、カノーヴァのスタイルを確立しました。

その後、カノーヴァはローマ教皇クレメンス14世とクレメンス13世の記念碑を制作し、名声をさらに高めました。代表作として名高い『アムールとプシュケ（エロスの接吻で目覚めるプシュケ）』（1787年-1793年）もこの頃に制作されています。ロシア宮廷からの依頼を辞退するなど、独立した立場を保ちながら創作活動を続けました。

フランス革命の影響で一時故郷へ戻った後、ローマに戻り活動を再開しますが、健康を害しドイツへ静養旅行に出かけました。

パリとロンドンへの旅

カノーヴァはナポレオン・ボナパルトによってフランスに持ち去られた美術品のイタリアへの返還という重要な任務を帯び、パリへ渡航しました。この任務は成功し、その後、カノーヴァはかねてからの希望であったロンドンを訪問します。ロンドンでは、熱烈な歓迎を受け、イギリスの芸術家たちとも交流を深めました。

晩年と死

晩年、カノーヴァは故郷ポッサーニョに自身の作品を収める神殿の建設に着手しました。建設資金を工面するため、高齢と病気にもかかわらず創作活動を続け、『マルスとヴィーナス』（1815年-1822年）など多くの傑作を生み出しました。しかし、多忙と病気のため、1822年にヴェネツィアで亡くなりました。カノーヴァの遺体はポッサーニョの神殿に、心臓はヴェネツィアのサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂に埋葬されました。

代表作

カノーヴァの作品は、英雄像、女性像、記念碑・墓碑など多岐に渡ります。

英雄像:『ペルセウスとメドゥーサの首』、『ナポレオン』、『テセウスとケンタウロスの戦い』、『ヘラクレスとリカス』など、力強くダイナミックな表現が特徴です。

女性像:『ヘーベー』、『踊るニンフたち』、『ヴィーナス』、『ナイアード』など、優雅で洗練された表現で知られています。ナポレオンの母や妻、妹などの肖像彫刻も制作しました。

記念碑・墓碑:スペイン王妃マリア・クリスティナの記念碑など、大規模な作品も手掛けています。

アントニオ・カノーヴァは、新古典主義彫刻の黄金時代を築き上げた巨匠であり、その作品は現在も世界中で高く評価されています。

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